第2話 小石を蹴り飛ばした後からの変化

 「……何かが変わった」

 

 ある瞬間から、急に体が軽くなった。

 

 風の抵抗も、昇り坂道から足の筋肉に溜まる乳酸抵抗も、空を切るような感覚で問題なく突破できている。周辺の人間たちも、彼の方を見詰めて関心で視線を奪われ出している。


「ひょっとしたら今なら言えるかもしれない……。俺の名前はチョメチョメマンだ! この名前を覚えておきたまえ!」


 彼がそう言うと、周囲の人間たちが一斉に拍手し出した。


「何かが違う、だと……」


 この時点から既に彼の運命は変わり出していた。


 ある時は、坂道で買い物帰りの女性の買い取ったオレンジを袋からひっくり返して落としてしまった。そして、彼は瞬時に身体が動いて、全て十個の転げ出していたオレンジを拾い集めて差し出した。凄まじい動体反応にその女性ではお礼を忘れそうだった。


 またある時は、女の子がうっかり手放して飛んだヘリウム入りの風船が、木の枝に引っかかって取れなくなってしまった。そこで彼は軽い身のこなしで木をよじ登り、風船を抱えて降り立った。女の子では、お礼を言うのも忘れそうなほど驚き出していた。


 そしてまたある時は、老婆がひったくりに荷物は盗まれた。その際、彼は瞬時で盗人の襟首を掴んで老婆から盗み出した物品を取り返して彼女へ回収してあげたりした。その行動に老婆では目を丸くして驚き出していた。


 そうして、日常試練らしい苦労も少ないまま、彼は自宅のアパートに戻ってきたのだった。

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