第11話 遅めのバレンタインチョコ

松本いちるとはまあそれなりの仲ではある。

というのもまあ...腐れ縁ぐらいには。

中学から一緒なので幼馴染と言えるかもしれない。

俺はその事を思いながら授業を受けた。

そうして午後に入ってから移動教室があった。


「祐大!」

「おう。じゃあ移動するか」

「そだねぇ」

「...そういえば。お前今日何だか積極的だよなぁ。何だか接し方が」

「そうだっけ?」

「何かイベントでもあるのか」


そう聞いてみるといちるは「や。イベントっていうか」と言い淀む。

それから顔をばっとあげてから俺の手を引く。

「こっち来て」と言いながら。

おい。授業が始まる。


「何だよ」

「ちょ」

「...ちょ。何だ」

「チョコレート受け取って」

「...は?今は3月だぞ。バレンタインデーは過ぎてるぞ。何でだよ」


「時間がかかったの。わ、私、普段料理とかしないから。ようやっと形になったから」といちるは言う。

俺は「はい?」と赤面した。

そこまでしてなんで作ったんだよ。

思いながら「何で...?」と聞いてみる。


「...それは...その。一応、普段からお世話になっているからぁ?」

「...普通はホワイトデーに近いんだが」

「煩いなぁ。あげないよ。チョコ」

「分かった分かった。...じゃあ受け取るよ」


いちるは箱を取り出す。

それから周りを見渡してから誰も居ない事を確認してから「はい」と渡してくる。

俺はそのかなり厳重にアレンジされた箱を見ながら笑みを浮かべる。

「さんきゅ」と言った。

するといちるは「う、うん」と笑みを浮かべた。


「えへへ。じゃあ行こう」

「これの為にお前は積極的だったんだな」

「まあこんなイベントなくても私は祐大に積極的だけど」

「意味が分からないな。何でだよ」

「ないしょー」

「...そうですか」


俺は箱を見る。

そこには綺麗に梱包されて入ったチョコがあった。

本当に美味しそうなチョコだな。

後で食うか。

そう思いながら俺は大切に箱を仕舞った。



いちるは天才だと思う。

移動教室でもぶれる事なく問題に答えていた。

圧倒的に難問に立ち向かう。

教師も驚愕していた。

そして放課後になってから俺はいちるを見る。


「しかし問題を解くのをやり過ぎんなよ?あまり詳し過ぎて教師が泣くぞ」

「んー。そうかなぁ?でも私は私の独自の解を出しただけだけど」

「いや。それがやり過ぎだ」

「そうかな?でも祐大が言うならやり過ぎかもね。自重します」


俺は苦笑しながら「じゃあ帰る」と言いながら俺はいちるを見る。

いちるは微笑みながら俺を見ていた。

俺は「またな」と柔和な顔をした。

因みにいちるだが科学部という部活動に入っている。

いやはやとは思うけど。


「うん。じゃあまた」

「ああ。んじゃ」


そして俺は下駄箱に向かう。

それから帰宅をする為に靴を出していると「お兄さん」と声がした。

顔を上げると手を振っているなちるちゃんが居た。

俺はその姿を見ながら「やあ」と挨拶する。

するとなちるちゃんは俺の顔を不思議そうに見てきた。


「何か言い事でもあったんですか?顔が嬉しそうです」

「...ああ。実はな。いちるにバレンタインチョコを貰った。特製のな」

「あ。そうなんですね。確かにお姉ちゃんがいきなり料理教えてって言ってきてましたもん。そうだったんですね」

「今から部活?」

「そうですね。...文芸部の部活です」


そう言いながらなちるちゃんは俺に柔和になる。

すると「じゃあ私も渡しますね」と言いながらチョコを渡してきた。

それは高級なチョコレートだった。

俺はビックリしながらなちるちゃんを見る。


「...これは...」

「はい。お姉ちゃんが手作りでしたし...私から送るのはこういうのが良いかなって思いました」

「でも高かったろうに。...ゴメンね」

「じゃあ今度...お姉ちゃんとデートしてあげて下さい。それでお代はチャラです」

「...へ!!!!?」

「お姉ちゃんは喜ぶと思いますよ」

「な、何でだよ。俺とアイツはそんな関係じゃ無いぞ。腐れ縁で幼馴染で友人だ」


「そうですね。でも友人だから遊んであげるのも良いんじゃないかなって思います」と言いながらニコッとするなちるちゃん。

俺は赤面しながらチョコを見る。

それから「分かった。そこまで言うなら」と返事をする。


「有難う御座います。それだったらチョコをあげても良いと思えました」

「なちるちゃんもやり手だね」

「...そうですね。私はやり手ですよ」


クスクスと笑い合う俺達。

それからなちるちゃんを見る。

なちるちゃんは「では」と言いながら律儀に頭を下げて去って行った。

俺はその姿を見ながら溜息を吐く。


そして歩いて帰宅...しようとした時。

何か視線を感じた。

殺気!


「...お兄ちゃん」

「...あ、ああ。お前か。七」

「...良いねぇ。女の子からチョコなんか貰ってさ。ふーんだ」


校門から覗いた角度でチョコを貰っているのが見えたのだろう。

嫉妬しながらな感じで口をへの字にする七。

俺は「友チョコだって」と言うが。

「どうかなぁ」と頬を思いっきり膨らませる。


「お兄ちゃんが言うならそうかもだけど」

「そうだって」

「...分かった。そういう事にしておくよ」


良かった。誤解が解けたわ。

そう思っていると七は俺の腕に腕を絡ませた。

それから恋人繋ぎをしてくる。

そして寄り添って来た。


「お、おい」

「お兄ちゃんはあくまで私のものだからね」

「...恥ずかしいってばよ」

「知らない。うわきものぉ」


そして七はプンスカと怒る。

俺はその姿をなだめながらそのまま帰宅した。

しかし女子からの...チョコか。

久々だな。

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幼馴染に振られました。親が再婚しました。義妹が出来ました。好き好きコールを受けています。おや?何だか義妹が進化した? アキノリ@pokkey11.1 @tanakasaburou

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