第9話 大切なお友達

☆大滝千代(おおたきちよ)サイド☆


私は音の大きさに過敏だ。

人が出した舌打ちの様な些細な音でも青ざめてビクッとなってしまう。

工場の音。

車の音。

生活音。

全部駄目だ。


だからこそこうして...ノイズキャンセリングイヤホンを着けている。

ヘッドホンといえるかもだけど。


過敏な為に人と一緒にあまり...居ようと思わない。

そんな私の横に転校生の美少女が来た。

私が席が空いていると言ったから来ちゃったけど...実際この子との関わり合いはそれで終わりだと思いながら授業を受けていた。

すると4時限目になってその転校生が話し掛けてきた。


「ねえ。大滝さん」

「...何ですか?市原さん」

「一緒にお弁当食べよう」

「...え?」


私は目を丸くしながら彼女を見る。

名前は市原七という名前の少女。

私にとってはあまり近付きたくないタイプだった。

太陽の様な。

私はヴァンパイア。

だから灰になってしまうだろう。


そんな少女が話し掛けてきた。

私は驚きながら市原さんを見る。

すると市原さんは机を持って来た。

それから「よいしょ」と言いながら机をくっ付けてお弁当を取り出す。


「市原さん。私と一緒だと...」

「何か不都合が有るかな。あるならゴメン」

「い、いや。私と一緒だとその...色々面倒というか」

「うーん。そんな事はないよ。折角、隣人だしね」

「...私の事は気にならないの?」


「どこが気になるの?」と市原さんはキョトンとする。

あまりの事にビックリ。

何故なら私を見てからの第一印象は「音楽聴いているの?」だったから。

それから「あまりやめた方が良いよそういうの」とかだった。

それなのにそれすらも気にしないとはおかしな子だ。


「私はおかしな子って言われるから。だから気にならないんだ」

「...え?何処が...」

「私は頭が良すぎるから。...だから忌み嫌われるの」

「...え?それって今噂のギフテッド...?」

「うーん。そうかもね。参考書を捲っただけで勉強できるし。でも私はこの力は好きじゃない。...好き...じゃない」


そう言いながら市原さんは沈黙する。

私はその姿を見ながら「?」を浮かべる。

そして市原さんを見ていると「私、引き籠っていた人間だから」と苦笑いを浮かべながら私を見る。


「...色々と絶望してね」

「...絶望...って何が...っていうか引き籠り...?市原さんが?」

「そうだよ。...6カ月間お風呂にも入らなかったよ。今となっては最低だねって思うけど。入れなかったんだ」

「...」


私は予想外の言葉に口が開いたままになっていた。

それを閉じながらお弁当を出す。

そして私は手が止まる。

そんな事が彼女にあったなんて思わなかった。

彼女は...太陽の存在じゃ無いのか。


「大滝さん。だから私は...人を救うって決めたんだ」

「...人を救うっていうのは...」

「私は医者になるって夢があるの」

「...お医者さん...?」

「そう。貴方の様な困っている人を助ける医者になりたい」

「...」


唇をかみしめた。

それから「私の...夢も聞いてもらえる?」と切り出す。

すると市原さんは「うん。笑わないし聞くよ」と真剣な顔をする。

私は「私は...旅行がしたい」と言った。

市原さんは「...音を恐れない旅行?」と聞いてくる。


「そう。自由に...羽ばたきたい」

「...素敵な夢だね。...私、凄い良いと思った」

「...!」

「え?」


私はまたも驚愕した。

そんな事を言われたのは...初めてだ。

その様な...褒め方は。

思いながら私は手元のお弁当を見る。

彼女は...。


「...大滝さん?」

「...貴方は他の子と何か違うね。...市原さん」

「...他の子と違うかな?そんなつもりは無いけど」

「励みになった。凄く」

「...そうかな?でも励みになったなら嬉しいな。大滝さんの」


そうか。

私は生きていても良いんだ。

そう思えた気がした。

彼女に接してそう思えた気がした。

彼女は凄い。

何が凄いかって消して良い部分を隠さないから。


「...私もいつか貴方みたいになれるかな」

「...なれるよ。大滝さんなら」

「...有難う。市原さん」


そして私は世界が広がる中でお弁当を食べ始めた。

横の市原さんを見る。

市原さんは「ほえー。めっちゃ旨そうだね」と目を輝かせて言ってくる。

私は「一人暮らしなの」と告げてから「何でも1人でしたいから」と答える。

それからおかずを見てから市原さんを見る。


「...良かったら食べる?」

「え?...あ、ありがとう!」

「...い、いや。卵焼き程度でそんなに喜ばなくても」

「じゃあ産地直送のプチトマトあげる」

「...え?」

「物々交換だね」


それから私のお弁当の蓋に真っ赤なプチトマトが乗る。

あたふたする私。

私はそれを見ながら(何だか勿体無い)と思ってしまう。

すると次に市原さんがとんでもない事を言った。

「お友達だね。これで」と。

え?


「物々交換をしたからにはまさにお友達だね」

「...え...で、でも私は...」

「迷惑って思わないでね。...こうしたからには私は貴方を親友として見たい」

「...」


正直その言葉に涙が溢れた。

それから涙を拭いながら「はい」と返事をする。

ハンカチをくれた。

そして涙を拭ってみる。

何て優しいんだろうかこの人は。


過去に会った人達はみんな...悪戯をする様な奴らだったから。

こんな太陽の気分は...初めてだった。

世界中にはこういう人はまだ居るんだなってそう思えた気がした。

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