第7話 医者という夢
☆市原祐大(いちはらゆうだい)サイド☆
先ず女子と触れ合うには。
1、己を変える。
2、容姿を整える。
3、心を穏やかに。
などなど書かれている。
俺は苦笑いを浮かべながら買ってきた恋愛書物を自室でベッドに投げる。
それから「やれやれ」と呟いた。
そして俺は外を見る。
明日...学校か。
そう考えながらだ。
そういえばアイツは...というか。
七は転校の手続きとかしたのだろうか?
よく分からないな。
思いながら俺は窓に手を添える。
外はまだまだひんやり状態だ。
それもそうだな。
3月だし。
思いながら俺は「ふむ」と言いながら窓から手を離す。
それから「さて。勉強でもすっか」と言いながら椅子に腰掛けた。
とは言ってもラノベが気になる。
買ってきた新刊。
よし。
「ラノベを読んでから勉強だな」
そう思いながらあっという間に1時間が経過した。
俺はハッとしながら慌てて勉強をしようとした時だ。
ドアがノックされた。
俺は「はい」と言うと七は「お兄ちゃん。チョコ作った」と言ってくる。
は?
「何だチョコって?七」
「うん。遅めだけどバレンタインだよ」
「いや。わざわざそんな事をしなくても」
「受け取ってくれなきゃ泣くよ?」
「おいおい!?」
俺は慌ててドアを開ける。
そこにチョコケーキをホールで創った様なケーキが。
俺は甘い香りに「美味しそうだな」と言う。
顔にチョコを付けたエプロン姿の七が「へへ」と言う。
「やれやれ。勉強しているんだけど集中できないな」
「え。あ。ごめんなさい。大丈夫かな」
「どっちでも良いよ。勉強は。...そうなると紅茶でも淹れるか」
「あ。じゃあ私が淹れよう」
「俺がやるよ。お前さんはケーキを作ってくれたしな」
そう言いながらリビングに向かう。
それからドアを開ける。
そこにはまだ片してない様なケーキグッズがあった。
俺は「...ずっと作っていたのか」と聞いてみる。
すると「うん。ばれんたいんだから」と七は答えた。
「バレンタインだからってお前は動き過ぎだぞ」
「えへへ。家事ぐらいは平気だよ」
「とは言っても明日学校があるんじゃ?」
「まあそうだね。でも大丈夫大丈夫。私、頭良いから」
「へぇ?どれぐらい頭が良いんだ?」
「うーん。学校で1位かな。成績」
「...は?」
「この前の全国模試では10位圏内だったよ」と答える七。
俺は「は、はは」と冷や汗をかく。
頭良すぎるだろ。
どうなってやがる。
「...お前ってギフテッドなのか?」
「教科書を捲っているだけだからそんなのあり得ない」
「それはお前...」
「まともにやりたいけどまともにやったら逆に分からなくなる」
「そ、そうですか」
やっとの思いで縋っている馬鹿な俺とは違う。
考えながら俺は七に苦笑いを浮かべた。
すると七は複雑な顔をする。
それから「それだけ真面目にやってもお父さんは蘇る訳じゃ無いけど。だからその分、お医者さんになりたいの」と言ってくる。
「...お前...」
「私は頭が良くなかった。だからこそ勉強法を探すのも大変だった。だけど見つけたんだ。ようやっと勉強法。それから伸びたんだよ」
「...苦労していたんだな」
「馬鹿にされる事も多かった。だけど私はお金じゃない。もう私みたいな悲しい人を出したくないから。医者になる」
俺はケーキを置きながら決意を新たにする七を見る。
その反対に俺は何をしているんだろうな。
そう思うと何だか...複雑だ。
だがその顔を七が蹴っ飛ばした。
「お兄ちゃん。お兄ちゃんはお兄ちゃんなりにやったら良いの。私はただやらなければならない事をやっているだけだから。お兄ちゃんはお兄ちゃんなりに生きて」
「...お前本当に優しいよな」
「...私ね。夢があるの」
「...何だ。夢って」
「もう誰も悲しまない世界を創造する」
俺はその言葉に「!」となりながら七を見る。
七は「東京大学の医学部を目指しているんだ。実は」と話す。
それから「私、外国に入学したいのもあるけど。だけどお兄ちゃんと離れ離れになるからイヤ」と否定した。
勿体ない。
俺なんかを置いていけば良いのに。
「...私の大きな夢は2つ。お兄ちゃんと一生を共にする。そして2つ目は医者になる。それだけ。だから私は外国には行きたくない」
「...」
「壮大な夢だけど。私は叶えたい」
「...壮大じゃないぞ。...お前ならやれるよ。...医者なんて軽くなれるんじゃないか?」
「まあね。だけど...医学部は途轍もない難関。だって...6年でお金もかかるしね」
「...奨学金を使うには...そうか。成程な」
「そうだね。...だからこそ奨学金を貰うには成績は絶対優秀じゃないと駄目なの。だけど私は今の時間も大切にしたい」
言いながら俺に近付いた七。
それから「その為にはお兄ちゃんのぱわーが要ります」と笑顔になる。
見上げてくる。
何よりも可愛い妹に見えた。
「...分かった。そこまで言うならお前を応援する。心から」
「...有難う。お兄ちゃん。きっと貴方ならそう言ってくれるだろうって思っていた」
「...頑張れよ」
「うん」
そして満面の笑顔を見せる七。
俺もそんな姿を見ながら笑みを浮かべる。
そうか。
彼女はそんな固い決意で生きているのだな。
そう思えた瞬間だった。
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