笑顔の理由

ちの

ユウとルリと魔法

“透明人間” “笑顔の仮面を着けている者”


彼女には、そんな言葉達が良く似合う。


私や彼女の両親以外は彼女の存在を認めなかった。


肌の色素が薄く、色白。

髪は珍しい朱色で、 瞳は桃色。

整った顔で、可愛らしい身長。


なのに彼女は、あまりにも認知されていない。

クラスメイトも、教師一同も、すれ違う人全員。

彼女を見ない。見えていない。


それでもユウは、笑っていた。


ある日、いつも通り中学校から下校している時、

彼女に聞いてみた。


「なんでそんなにずっと笑ってるの?

 なんでそんなに泣かないでいるの?

 みんなから見えないフリされてるのに。」


私には、そんな言い方しかできなかった。


この世界全部が敵で、

ユウが被害者みたいに思えて仕方なかった。


なのにユウは、笑いながら優しい声で言った。


「だって、本当に見えてないからね。」


当たり前のように。

挨拶をするのと同じように。


驚いた顔をする私を、彼女は笑った。


「ふふ。ルリは魔法が使えないけど、

 私は透明化の魔法が使えるんだよ。」


“なんで言ってくれなかったの。”

“何で隠してたの。”

“なんで私には見えるようにしてるの。”

“なんで周りに見えないようにしてるの。”


聞きたいことはいっぱいあった。

でも、一番に出てきたのはどれとも違った。


「…じゃあなんで、そんなにずっと笑ってるの?」


ユウは不思議そうに小首を傾げてから言った。


「だって…私が何しててもバレないんだよ?

 楽しい事ばっかり考えていられるから、

 自然と笑顔になっちゃう!」


「じゃあなんで泣かないの?」


彼女の両親が不慮の事故で亡くなった時、

私は泣いたけど、ユウは泣かなかった。


「おじさんとおばさんが死んじゃった時、

 何で泣かなかったの?」


「血が繋がっていようとも他人でしょ?

 むしろ、なんで泣くの?疲れない?」


純粋な疑問らしかった。

それがなんとなく悲しかった。


「疲れるよ。そうだよ、他人だよ。

 でも、普通は泣くものなんだよ。」


「それはルリの普通。

 私楽しい事だけに目を向けるのが私の普通。

 だからね、この話は終わりにしよ?」


そう言った時のユウの顔はいつもと違って、

心の底から楽しそうな顔だった。


それを見た瞬間に、どうでも良いやって思えた。

思えてしまった。だから頷いた。


「…分かった。


 じゃあさ、なんで見えないようにしてるの?」


「だって他人と関わりたくないし。

 ルリがいれば楽しいから良いんだよ。」


優しい瞳がむず痒くて、

リアクションせずに次の質問をした。


「なんで隠してたの?」


「言う時期逃しちゃったからかなぁ。」


「……そっか。」


なんか、全部違うんだなって改めて思って、

どうでも良い訳じゃないけど、

まあいっかって思った。


「じゃあ自販機のおしるこ奢って。」


「え゛?」


「言わなかった方が悪いもん!」


高々120円だし。


私達は魔法が使えない仲間だと思ってたのに…

置いていかれた気分だし。


「これで全部元通りになるからさ。」


悲しい事も、寂しい事も、全部呑み込むからさ。


「…しょうがないなぁ。一回きりだからね!」


私達は笑いながら家に向かって歩いた。

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笑顔の理由 ちの @Sky-9016

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