第8話 少年の戦い

――令和○年5月3日(月・祝) 午後1時10分頃――


 車よりでる、少年二人、そしてお付きの大人。他の車からも、多くの人員、飛び出し、散って行く。思うより大所帯な相手。驚きに私も、目をみはるる。


「待たせたかな」

「いいえ。我らに待ちはありません、殿下」


 少年の一人、こちらに近づき、一声。その姿、長袖長ズボン、地味尽くし。そして目深な帽子の被り、口元除き顔見せず。背格好は私ぐらいか、年齢も近そう。

 併せて祖父様、平伏する。祖母様に護衛隊も、同様に続く。水人と私も、慌てて平伏。そして祖父様の口上。想像以上に、御大層かも?


「そういうの、いいよ。今日はお忍び。普通にしてよ」

「はは」


 少しかん高い、少年の声。仕来しきたりを煩わし気、あるがままにと命じ。祖父様、意向のままにと応じ。ならって祖母様、護衛隊と続き、終いに水人と私、立ち上がる。この少年の声、どこかで聞くこと、あるような?


「早速で悪いけど、時間も掛けられないから、始めようか。頼むよ」

「はは。では、それがしが仕切らせていただく」


 忙しいのか、少年から仕合い、開幕の言葉。少年振り向き、彼の側仕え、大柄な男性に、仕切りを託す。男性、否、某さん、下命に従い、広々とする空き地進み、こちらを振り返る。某さん、判定役も兼ねる、らしい。


「両家代表、出でよ」

「宜しく」

「仰せのままに」


 某さんから号令、戦う者、進み出よと。相手からは、もう一人の少年、進み出る。地味尽くしの少年、れ違い様、もう一人の少年と、言葉交わす。如何にも主従の風情ふぜい。もう一人の少年、うやうやしく頭を下げる。

 もう一人の少年……対戦相手、剣道着に袴姿、足元は足袋たびのよう。得物は左腰に、打刀うちがたな脇差わきざし、典型的な日本刀使い、みたい。顔は童顔、幼さ残り……もしかして前髪、長い?……両脇にピンで前髪寄せ、額を見せてる。背格好は水人に近い、こちらも歳の差は少なそう。


「……水人」

「行ってくるよ。待っていてね」


 水人も進み出る。心配気に、名を呟く私。それに笑顔で、水人は応じて。水人の後姿に、唇をキュっと、私は噛みしめる。

 水人の出で立ち、ピッタリ系シャツにズボン、丈の短いポンチョ羽織り。左腕に丸盾持ち、右手には短槍、左腰に小太刀。要所にプロテクター装着。中距離から幻惑するスタイル……今日の相手と、相性良く思うけど……


 某さん真ん中に、凡そ10メートル離れ、水人と相手、向かい合い、立ち止まる。


「両者、構え……」


 某さんの合図。水人は、腰を少し落とし、盾を胸前、槍をやや突き出し。相手は、左引きの半身、腰をやや落とし、右手を打刀の柄に添え……居合術使い?


「始め!」


 開始と同時、相手の突進。やや蛇行しつつ、速い足運び、袴苦にせず。居合いの間合いか、抜刀、水平振り抜く。水人は、盾で受け流し、槍突き込む。相手、無理せず跳び退き、槍は届かず。


 初手は互角。互いに様子見か。否、水人から打って出る。盾を前に出し、突進。相手、自身の右手へ回り込み、水人の死角へ。水人は腰落とし、右急回転、まま槍を右に払い抜く。相手、打刀で弾き――水人、踊る足捌きで直ぐ様、姿勢整え正対する。相手、追撃を断念。一時の膠着こうちゃく


「……み――」

「一美。声を出しては、いかん」


 数舜の間の攻防。私は見入り、声援か悲鳴か、漏れそうに。直ぐ様、祖父様の声、私を押し止める。我慢……声を出したい、けど水人の戦い、水人自身で切り抜けないと……理解しているも、見るの、辛い。


「水人は大丈夫。一美は水人を信じて上げなさい」


 祖母様も緊張気味、でも優しく言葉、くれる。勝利を信じなさい、と。何時の間にか私、両手を組み、祈りの姿勢……ふと思う、相手側は、どうだろうか?


 相手側、地味尽くしの少年、横目に見る。目深な帽子は変わらず、けれど、だらり下げたような腕、かすかに震えてる。重圧は隠せない、か。それを見、私だけではない、と悟る。そして、私は自分の出来ること、心で応援に、集中し始める。


 さらに攻防続き、互いに息が弾み出し。共に死力尽くして。そして時の悪戯――止まっていた風、少し吹き出して――


 刹那、突風抜ける。水人の右顔、一房の草当たる。瞬間、水人は右目をつむる。相手見逃さず。相手、歩幅大きく踏み込み、自身の左側、下方より打刀、切り上げる。水人、回避行動遅れ、槍持つ右手甲で受け、槍を放す。プロテクターしてるはず、痺れた?


 ニヤリ歪む相手の表情かお。そして追撃、打刀打ち下ろす。水人、盾で受け、競り合いに移行――盾を前へ押し込み、隠しつつ右手は小太刀の柄。盾に勢い付け押し投げ、その死角より小太刀抜刀、水人は相手の額狙う。相手、背を反り、直撃を避け、けれど何か、相手の額から弾ける。一拍後、相手の顔面、自身の髪の毛掛かる。水人、小太刀の軌道を帰し、相手蟀谷こめかみへ一撃。相手、回避不能。


――ゴッ!!


 鈍い音、戦場いくさばを通り抜け直後、相手崩れ、落ちる。水人、止めと、小太刀構えし時――


「それまで! 勝者、清川家代表」


 某さんの勝ち名乗り。戦い、見守る人々、詰まる息を吐いて。弾かれるように私、涙を流しながら、水人へ駆け寄り――


「水人、生きてて良かった――」


 今にも倒れそうな、水人に抱きついた――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る