第8話 少年の戦い
――令和○年5月3日(月・祝) 午後1時10分頃――
車より
「待たせたかな」
「いいえ。我らに待ちはありません、殿下」
少年の一人、こちらに近づき、一声。その姿、長袖長ズボン、地味尽くし。そして目深な帽子の被り、口元除き顔見せず。背格好は私ぐらいか、年齢も近そう。
併せて祖父様、平伏する。祖母様に護衛隊も、同様に続く。水人と私も、慌てて平伏。そして祖父様の口上。想像以上に、御大層かも?
「そういうの、いいよ。今日はお忍び。普通にしてよ」
「はは」
少し
「早速で悪いけど、時間も掛けられないから、始めようか。頼むよ」
「はは。では、
忙しいのか、少年から仕合い、開幕の言葉。少年振り向き、彼の側仕え、大柄な男性に、仕切りを託す。男性、否、某さん、下命に従い、広々とする空き地進み、こちらを振り返る。某さん、判定役も兼ねる、らしい。
「両家代表、出でよ」
「宜しく」
「仰せのままに」
某さんから号令、戦う者、進み出よと。相手からは、もう一人の少年、進み出る。地味尽くしの少年、
もう一人の少年……対戦相手、剣道着に袴姿、足元は
「……水人」
「行ってくるよ。待っていてね」
水人も進み出る。心配気に、名を呟く私。それに笑顔で、水人は応じて。水人の後姿に、唇をキュっと、私は噛みしめる。
水人の出で立ち、ピッタリ系シャツにズボン、丈の短いポンチョ羽織り。左腕に丸盾持ち、右手には短槍、左腰に小太刀。要所にプロテクター装着。中距離から幻惑するスタイル……今日の相手と、相性良く思うけど……
某さん真ん中に、凡そ10メートル離れ、水人と相手、向かい合い、立ち止まる。
「両者、構え……」
某さんの合図。水人は、腰を少し落とし、盾を胸前、槍をやや突き出し。相手は、左引きの半身、腰をやや落とし、右手を打刀の柄に添え……居合術使い?
「始め!」
開始と同時、相手の突進。やや蛇行しつつ、速い足運び、袴苦にせず。居合いの間合いか、抜刀、水平振り抜く。水人は、盾で受け流し、槍突き込む。相手、無理せず跳び退き、槍は届かず。
初手は互角。互いに様子見か。否、水人から打って出る。盾を前に出し、突進。相手、自身の右手へ回り込み、水人の死角へ。水人は腰落とし、右急回転、まま槍を右に払い抜く。相手、打刀で弾き――水人、踊る足捌きで直ぐ様、姿勢整え正対する。相手、追撃を断念。一時の
「……み――」
「一美。声を出しては、いかん」
数舜の間の攻防。私は見入り、声援か悲鳴か、漏れそうに。直ぐ様、祖父様の声、私を押し止める。我慢……声を出したい、けど水人の戦い、水人自身で切り抜けないと……理解しているも、見るの、辛い。
「水人は大丈夫。一美は水人を信じて上げなさい」
祖母様も緊張気味、でも優しく言葉、くれる。勝利を信じなさい、と。何時の間にか私、両手を組み、祈りの姿勢……ふと思う、相手側は、どうだろうか?
相手側、地味尽くしの少年、横目に見る。目深な帽子は変わらず、けれど、だらり下げたような腕、かすかに震えてる。重圧は隠せない、か。それを見、私だけではない、と悟る。そして、私は自分の出来ること、心で応援に、集中し始める。
さらに攻防続き、互いに息が弾み出し。共に死力尽くして。そして時の悪戯――止まっていた風、少し吹き出して――
刹那、突風抜ける。水人の右顔、一房の草当たる。瞬間、水人は右目を
ニヤリ歪む相手の
――ゴッ!!
鈍い音、
「それまで! 勝者、清川家代表」
某さんの勝ち名乗り。戦い、見守る人々、詰まる息を吐いて。弾かれるように私、涙を流しながら、水人へ駆け寄り――
「水人、生きてて良かった――」
今にも倒れそうな、水人に抱きついた――
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