第7話 戦勝の誓い

――令和○年5月3日(月・祝) 午後0時30分過ぎ――


 水人と私、四角い車、その後部座席。早坂莉緒の家、その近所から、目的地まで、向かう道中。今日の本題、水人が戦う……でも車内の空気、気まずい。


……お灸効き過ぎ?……


 水人拗ねてる、私を見ない。どうする、私?


「水人、私のこと、嫌いに?」

「…………」


 残り時間、少ない。仕方なく、私への好意で、確かめる。でも返事、くれない。水人の姿勢に、溜息漏れる。私もムカムカ……もう、実力行使!


「水人、こっち向く」

「…………」


 水人の頭掴み、振り向かせよう、力込める。水人の抵抗、力みの息遣い。


「このままは、水人負ける。離れ離れ近づく、それでいい?」

「…………イヤだ」


 戦いの後の結末、予測を語る。水人から力抜け、こちらを向く。水人の顔、涙に濡れている。零れるように、拒否の言葉。手拭いを取り、その顔拭き上げる。水人、為すがまま。私は、言葉を続ける。


「私の怒り、理解してる?」


 水人は首を、小さく横に、振る。小さく溜息、吐く私。


「捕り物劇の時、私一人にしてる。それ、ダメなこと」

「…………ごめん」


 お灸を据える理由、水人に伝える。不理解なこと、謝る水人。更に私の、続ける言葉は……


「だから約束、する。私を一人に、しない。今日、水人は勝つ」



「……うん、約束するよ。一美ちゃんの名に掛けて」


 水人と私、座る後部座席、側面と後部、カーテンで仕切られ。運転席ある前方も、レースのカーテンで、仕切り。はっきり見えない、そう思うから。激励にと癒しキス、水人の頬へ、降らせる。


 道路は悪路に、車の揺れ大きく、変化する。もうすぐ、野仕合の地へ……



――令和○年5月3日(月・祝) 午後1時直前――


 穣紫野台地の端。太平洋注ぐ、大河川を眼下に。密に雑木林、三方囲む地。近隣、背高構造物なし。誰にも知られない、見られない地。それが野仕合、戦いの場。


 今から始まるは、いくさ。得物に制限、なし。水人と相手、どちらか戦闘不能、それまで仕合い、止まらない。運無ければ、死に至る。


「祖父様、祖母様、一美です」

「師範、それに師範代、鈴城、只今到着致しました」


 先に居る、祖父様と祖母様へ、ご挨拶。二人の背後、自社の護衛隊制服、数名。周囲に感じる、物々しさに訝る。仕合い、否、元見合い相手、御大層?


「ふむ、少し早かったな」

「待っていましたよ」


 祖父様と祖母様に、ご返事貰う。


「ふふ、一美、女子会は楽しかったですか?」


 祖母様の問い、コクリ、頷く私。私の手に入れたいもの、教わる時間、また持ちたい。祖母様の計らいに、感謝。


「ほう、ここしばらくで一番マシな顔つきだな、水人よ。覚悟はできたな?」

「はい、師範」


 祖父様は、水人に問い掛け。水人の心、持ち直し、私のげきのおかげ。引き締め顔の水人。誇らしげに、祖父様を見る私。祖父様、私を睨む。


「一美よ、戦の趨勢に係わる真似、余りしてはいかん」


 元気注入……私の行い、それだけ。余計な真似、ない。だから、プイと横向く。


「あなた、余計な真似を一美はしておりませんよ。あっても、戦勝祈願の祝福でしょう?」

「フン!」


……祖母様に、バレてる?……


 祖母様、楽し気に、私へ流し目。祖父様、面白く無さげ、鼻を鳴らすだけ。


 緩み掛けた、空気少々。でも、近づく走行音に、再び戦の場、緊張に包まれいく。これから仕合う、相手の登場に……

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