第5話 盗撮犯、捕り物帳

――令和○年4月12日(月) 放課後――


「盗撮犯、捕まえる?」

「そう。上手く行けば、ボクの知名度も上がるよ」


 部活見学の最中、水人が言う。ソフトテニス部、以前から困ってる。盗撮犯、時おり現れる。この話、女子部員から、水人が聞き取っている。むぅと、むくれる私……


 解決すれば、水人も有名。でも、それでは……水人に擦り寄る、女共増える……だけでは?


「部活、それで決めて、いいの?」

いては一美ちゃんのためにもなるよ」


 見目が良い、噂される私。視線が向く、覗かれる私。そんな男共、私は嫌い。褒め言葉をくれる、見詰めてくれる。水人がするだけ、それで私は良い。心は決まっている。交際宣言で十分、いいえ過分、それなのに……より頑張ろう、とする水人。想い伝わらず、もどかしい。


「上級生対策? 寄って来る、者ない」

「今はね。ボクもほぼ傍に居るから。でも、一美ちゃん一人きりもあるだろうし」


 未だ覗く者、ほぼ上級生だけに。でも私は、負けない。上級生と言えど、の住人だから。ただ本気は、出せないも事実。抵抗も、怪我のない範囲。水人の言い分も、確かにある。だから宣言したい、と言う。私の彼氏、上級生より強い。手を出せば、報復怖いと。


 しばらく意見、出し合うも、私は説得できず。水人に従うこと、仕方なしと、私は応じる……



――令和○年4月19日(月) 放課後・部活中――


 今日、部活初日。盗撮犯が出る話、続報ない。


……本当に出る?……


 まだ半信、半疑な私。テニスウェアの上、体操着を重ね着。まだ肌寒い、どちらも長袖長ズボン。女子部員、みんなさっぱり、色気無し。半袖ひらひらスカート、テニスウェア。この寒い時期、大会直前、レギュラーだけ。そんなものと、部長から聞いてる。


 男子部員に混じる水人、時折り視線、こちらにくれる。男子女子ない部名、水人と並んでできる期待、私は裏切られる。詰まらない、そう気を抜いている時……押し殺す気配、その視線を感知する。


……はぁ、本当に出る……


 『居る』と、視線が向く水人へ、ハンドサイン送る。サインを見る水人、コクリ頷き、部員の輪から、迅速静穏に外れる。打ち合わせ通り、囮役は私。テニスコート囲む、フェンスの向こう、灌木重なり茂る辺り、人物の気配。その目の前へ、自然を装い、女子部員の輪を外れ、私は移動する。


 如何にも一休憩、その雰囲気、私は醸す。体操着の上、襟元の口を広く開け、手を扇ぎ風を送り、気配の行動誘う。でも気配に、動きない。


……ふむ、足りないか……


 ならばと体操着の上、その裾を捲り上げ、手を扇ぎ風を送る。気配の視線、粘り増す。


……ふもう少し?……もっと?……


 ではと、他の部員に見られぬよう、振り返る。体操着の下のテニスウェア、その裾に手を掛け、ゆっくり持ち上げる。すると気配に、動き出る。


……もう良いか?……


 ちらと、隠れし気配の後方、流し見る。気配殺す、水人が見える。


……もう……限界……


 隠れし気配へ、殺気を解放。気にたる気配、瞬間硬直、そして反動。音立て、気配の人物、立ち上がる。その両手は、カメラを構え。


「盗撮犯、見つけたぞ! 覚悟ーー!」


 大声と共に、水人飛び掛かり、気配の人物、押し倒す。そして寝技を掛け、抑え込み。終結と思い、乱れた服装、私は正す。


「どうした?!」「何があった?!」


 銘々に声を上げ、様子見に来る、男子部員たち。


「盗撮犯だ! みんな、手を貸して欲しい!」


 水人の要請を聞き、フェンスを回り込み、盗撮犯に駆け寄る、男子部員たち。同時に女子部員たち、歓声上げる。視線を女子部員へ、一旦向ける。捕まえて、とても嬉しい、みたい。


 視線、水人に戻す。いの一番、駆け寄る男子……見覚えある。同じ教室、目立たない男子、のはず。疑問に思うところ、話し掛けられる私。


「ねえ、清川さん。もしかして、狙われてた? 大丈夫?」

「……うん、大丈夫……」


 同じ教室の沼端ぬまはた、さん。話し掛けてくる、と思わなくて。一先ず、問題ない、そう答える。動揺、隠しおおせてる、と思う。


「もしも不安があったら教えてね。一緒に対策、考えてみよ」

「……ありが、とう……」


 心配された、だけらしい。嬉しく思い、お礼を述べ、お辞儀する。手を振り、離れゆく沼端さん。


 既に盗撮犯、男子部員たちに連行され。たぶん職員室へ、と思う。当然、水人もしばらく、戻らない。私への気遣い、なく。盛大に溜息、一つ。


……水人、今晩、癒しキス、なし!!

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