第11話 DV

「ーー誰が何と言おうとあたしはこの子を産むんだから!」


 お姉ちゃんが、白雪双葉が、そう言って家を出ていったことを今でもはっきりと覚えている。


 私はお姉ちゃんに嫌われていた。

 ひとつの原因は性別にあって、私はαでお姉ちゃんはβだった。

 うちはα家庭で、お姉ちゃんが異色だった。だけど、両親もお兄ちゃんも私もお姉ちゃんがβだからといって差別をしたわけでは決してない。



 ーーあんた、飛び級するんだ。いいね、αは対して努力をしなくても成果が出てさ。

 ーーそんなことないよ、お姉ちゃん。私だってちゃんと努力してーー!

 ーーαが努力なんてするんじゃないわよ!ただでさえ、あたしの先を歩いてるのに嫌がらせのつもりなの!?



 お姉ちゃんは出来損ないなんかじゃなかった。

 けれど、私やお兄ちゃんに対して劣等感を抱いていた。

 自己肯定感の低いお姉ちゃんに漬け込んだのがひとりの男だった。異変に気付いたのはお兄ちゃんだった。



「ーー双葉、その腕の痣をみせてみなさい」

「痣?そんなものなんかないわよ!」


 お姉ちゃんはその言葉とは裏腹に腕を隠す。


「痣がないのならみせられるだろう?」


 ぐいとお兄ちゃんが腕を引いたら、お姉ちゃんが悲鳴をあげる。その腕は痣だらけだった。


「……自分でぶつけたんじゃないな?彼氏にやられたのか?」

「……ちょっと転んだだけだから」

「医者の目は誤魔化せないよ。そんな男とは別れてしまいなさい。暴力に訴える男にろくーー」

「うるさいな!彼はあたしのことをちゃんと見てくれるのよ!正しく評価してくれるのよっ!お兄ちゃんたちとは違ってね!」

「待ちなさい、双葉っ!」

「お姉ちゃん!」


 家を飛び出していくお姉ちゃんを私たちは止められなかった。



 ーーごめんな、双葉。痛かったな。お願いだ。俺から逃げないでくれ。嫌いにならないでくれ。俺にはお前しかいないんだよ……っ。

 ーー大丈夫だよ。ちゃんとわかってるから。ありのままのあたしを愛してくれるのはあなただけだから。



「お兄ちゃん、私、何かお姉ちゃんにしてあげられないかな?」

「俺が診断書を書くから警察に行こう。双葉は大事な妹で家族だからな」




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