第10話 夕貴

「ご馳走様です。美味しかったです」

「えへへ。良かった〜美味しいものを食べると元気出るからね」


 にこにこと笑う美南さんに私も笑顔になる。


「……いっしょに、おふろはいろ?」


 控えめに夕貴ちゃんが私の服を掴む。いいよと私は笑顔で頷いた。


「……夕貴が懐いてるな」

「んー。夕貴ちゃん、あたしとはまだお風呂一緒に入ってくれないのにな〜ちょっと複雑」

「まぁ、相性だろう。気にするな、美南」

「じゃあ、今日はつかさと一緒にお風呂入ろうかな」

「たまにはいいな。夕貴が来てからはあまりふたりで入っていなかったしな……夕貴、入浴剤どれにする?」

「……これにする。わたし、これすき」

「どんなやつか見せてもらっていい?」

「これだよ。あまいにおいがするの」

「ミルク風呂だね。気持ちよさそうだね」

「じゃあ、お風呂の準備をしてくるから夕貴は美南の手伝いをするんだよ」


 夕貴ちゃんはつかささんの言葉に頷くと夕飯の片付けを始めた。


 ☆


「……ねぇ、りっか。りっかはあたまがいいんだよね?」

「頭が良いかはわからないけど、弁護士をやってるよ」

「……べんごしって、どんなしごと?」

「んー、悪いことをした人が必要以上に反省しなくて良いように手助けするお仕事かな」

「……わるいひとのみかたなの?」

「……そう聞かれると難しいなぁ」


 私は夕貴ちゃんの質問にうまく答えられずにいた。


「……わたしはわるいこだから、りっかはみかたになってくれる?」

「え……?」

「わたし、ひだりめがみえないの。おかあさんが、わるいこだからみえなくしてやるっていったの」

「お母さんって、美南さんとつかささんのことじゃないよね?」

 

 こくりと夕貴ちゃんが頷く。


「わたし、あたまがよくないからわからないの。どうしたらいいこになれたのかなぁ……?あたまがいいりっかなら、わかる……?」


 夕貴ちゃんの闇が顔を覗かせる。

 思わず私は夕貴ちゃんを抱き締め言った。夕貴ちゃんは悪い子じゃないよ、と。


 自分の子どもを傷つけるなんて信じられなかった。


「……りっか、おかあさんににてる……」


 ドクンと心臓が嫌な音を立てる。


「……夕貴ちゃん、お母さんの名前は?」

「……しらゆき、ふたば……」


 あぁ、夕貴ちゃんは。

 私の姪だーー。


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