第8話 六花のために

「お姉ちゃん、入院したんだって。六花さんから連絡があったよ」

「入院!?お腹の子に何かあったの!?」

「ううん。悪阻だって。水も飲めないくらい弱ってたらしくて。だからさ、明日の仕事帰りに顔出してきていいかな?」

「もちろん!結がいいなら私も一緒に行っていい?」

「いいよ。じゃあ、一旦家に帰って来ようか」

「そうしよう。……妊娠って大変なんだね」

「そうだね。命を授かるんだから、いろいろあるよね」


 結が私に触れてくる。

 私はそれを受け入れる。

 ぼんやりと子どもを作るときは逆にしないといけないなと考える。

 3年は仕事を頑張り、ふたりの時間を楽しもうと決めている。

 3年経ったらピルをやめて、子どもを作ろうと考えていた。



「……ね、結。練習、したほうがいいかな?」

「練習って何の練習?」

「……結を気持ちよくさせる、練習」

「積極的だね、千夏?顔真っ赤なんだけど?」


 笑いながら結が私の手を導いてくれる。


「良いよ。どっちが上手か競争ね!」

「えぇっ!それはなんか違うー!」


 本気を出した結に私はあっという間に敗北した。


 ☆


「今日、実ちゃんが入院になったよ。妊娠悪阻で」

「あぁ、六花から聞いたよ。私に何が出来るでしょうかっていろいろ聞いてきたよ」

「六花ちゃんらしいね。でも、やれることってないんだよね。背中をさすってあげるくらい?」

「……相談なんだが、実が帰って来るまで六花を家で預からないか?あの状態の六花をひとりにするのは心配なんだよ。もちろん美南と夕貴が良ければだけど」

「あたしはオッケーだよ!……ねぇ、夕貴ちゃん。しばらくの間お客さんを呼んでもいい?」

「お客さん……?」

「とっても頭の良いお姉ちゃんだよ。夕貴ちゃんとちょっと雰囲気似てるかも」

「わたしに、にてるの……?」

「あぁ、確かに言われてみれば似てるな」

「…………ちょっと、みてみたい」

「なら、明日連れてきてもいい?」

「……うん。だいじょうぶ」

「ありがとう、夕貴」

「……つかさのともだちなら、きっといい人だとおもうから」


 いつの間にか信頼されていたことに私と美南は顔を見合わせる。嬉しい。


「じゃあ、ちょっと六花に電話してくるよ」

「はーい。じゃあ、あたしと夕貴ちゃんはお部屋の掃除しよっか♪」

「……うん」

「いい返事!夕貴ちゃんはいい子だねー」


 微笑ましい光景を後に私は六花に電話をかける。



『ーーひとりは寂しいだろうから、明日から家に来ないかい?』




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