第6話 反省

『ーー結先生、結婚してたよぉぉ』


 私はボロボロと泣きながら樹姫に電話していた。


『……諦めるの?』

『え……?』

『あたしなら諦めないかな』

『でも、結婚だよ?諦めるしかなくない?』

『欲しいなら奪っちゃえばいいじゃない』


 予想外の樹姫の言葉に私の涙は引っ込んだ。


『ま、そうはさせないけどね。あたしも譲れないから』

『う、うん?そうなの?』

『そうなの。……ま、暦のしたいようにしたらいいんだよ』


 優しい樹姫の声音に私の心は落ち着きを取り戻していく。


『まずは情報収集じゃない?彼方先生がどんな人と結婚したのか』

『ゔー、それ聞くの辛くない?惚気られたら立ち直れない気がするよ』

『まぁ、それは我慢だね』

『他人事だと思って酷いよ、樹姫』

『あはは。ごめんごめん。でも、簡単に諦められるような恋じゃないでしょ?あたしも、片想いしてるからわかるよ』

『え!?樹姫が片想い!?誰が相手なの!?やっぱり芸能界の人だったりする!?』

『それはひ・み・つ。……鈍い相手なのよ』


 電話越しに樹姫の溜息が聞こえてくるようだった。


『お互いに恋愛、頑張ろう〜』

『そうだね。じゃ、また明日学校で』

『うん。おやすみ、樹姫』

『おやすみ、暦』


 樹姫の言葉が力をくれる。

“奪っちゃえばいい”なんて思いもしなかった。


 ☆


「ーーごめん、千夏。今更だけど、自分の愚かさを思い知ったよ」

「へ?急にどうしたの?」


 帰宅し、開口一番に結がそういうことを言うものだから、

 私は慌てて鍋の火を止めて彼女に向き合った。


「何かあった?」

「怒らない?」

「怒られることしたの?」

「してないよ」

「なら怒らないよ。ちゃんと聞くから話してみて?」


 私たちはソファーに移動して、こてんと結は私の太ももに頭を乗せた。


「……幼馴染と再会した話覚えてる?」

「覚えてるよ」

「……その子にさ、たぶん、アプローチされた」

「ふむふむ」

「結婚してるってもちろん断ったよ?」

「うん。結のこと信じてる。じゃあ、何に対して謝ってたの?」

「あー……、アプローチされるとさ、あれほど痛い視線を向けられるんだなーって。わたし、めっちゃ千夏にアプローチしてたじゃん?めちゃくちゃ迷惑かけてたよね!?」


 なんだそんなことかと私はクスクスと笑う。


「あ、笑ったー!こっちは真面目に反省してるのに!」

「いや、懐かしいなって思って。あの頃はいっぱい悩んだよね。教師なのに生徒を好きになっていいんだろうかって、さ。まぁ、“好き”のほうが勝って、今があるんだけどね」


 ちゅっと私は元気のない結のおでこにキスをする。


「……結とのことに後悔なんかひとつもないから、元気出して?」

「……わたしのこと、好き?」

「好きよ。大好き」

「じゃあ、おでこじゃなくて唇にキスして?」

「ふふ。喜んで」


 柔らかな唇が重なる。


「ーーこのまま千夏のこと食べてもいい?」


 私の返事を待たずに手が服の中に侵入してくる。

 わかってるくせに。私が抵抗しないこと。

“いいよ”のかわりに私は結の耳にキスをした。


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