第5話 初めてのステーキ
「ーー結先生!質問いいですか?」
「大歓迎よ、清水さん」
「あー、清水さんってよそよそしい!昔みたいに“暦”って呼んでくれたら良いのに!」
「ごめんなさい。わたしは“先生”だからそうはいかないの」
「ちぇー。まぁ、先生を困らせたいわけじゃないから仕方ないか!」
わたしは暦ちゃんが納得してくれてホッとしていた。
なるほど。わたしが千夏にしていたのはこういうことだったのか。若さって恐ろしい。家に帰ったら千夏に謝ろう。あ、他の先生の視線が刺さる。
「どこがわからないの?」
「えーっと、ここです、ここ」
「これはねーー」
するりと手が触れる。
わたしはそれに気づいて、手を離す。
けれど、また手が重ねられる。
「ーーその指輪は彼氏にもらったんですか?」
耳元でそう囁かれる。わたしは首を横に振り、答える。
「これは結婚指輪だよ」と。
☆
「ただいま、美南、夕貴」
「おかえり、つかさ!」
「…………おかえりなさい」
「いい匂いがするけど、晩ごはんは何?」
「ステーキだよ!夕貴が食べたことないって言うから奮発しちゃった!」
「それは良いな。夕貴にはいろんな美味しいものを食べさせてやりたいしな」
ふっと笑うつかさから夕貴は目をそらし、美南はカッコイイと頬を染める。
「夕貴、ナイフとフォークの使い方はわかる?」
「…………わかんない」
「じゃあ、教えるよ。だから、少し手に触れてもいいかい?」
「!」
身を固くする夕貴につかさたちは目を見合わせる。
「……わかった。触れないよ。今日は私が夕貴のを切り分けるよ」
「…………ごめ……なさい」
「謝らなくていいさ。無理強いはしないから。ゆっくりでいいんだ。私たちは焦らないから、夕貴のペースでいいんだよ」
私は夕貴のステーキを一口大に切り分けていく。
「ご飯を食べられるようになっただけ進歩してるよ、夕貴は。ほら、できた。熱いから気をつけて食べるんだよ」
「…………ありがとう、つかさ」
「どういたしまして。“ありがとう”が言えて夕貴は偉いな」
夕貴がステーキを口に運ぶ。ゆっくりと噛むとその表情が和らいだ。
「夕貴ちゃん、美味しい?」
「…………おいしい」
「なら、良かった。いっぱい食べてね」
「…………ありがとう、美南」
「えへへ。喜んでもらえて嬉しいなぁ」
美南がにこにこと笑っている。美南は愛情深い。きっと彼女の愛情は夕貴に届くだろう。
ーーねぇ、つかさ。子ども、欲しくない?
ーー……私も美南もβだから、子どもは出来ないが?
ーーそうだけどそうじゃなくてさ、“養子”どうかなって。
ーー……私は美南がいれば充分幸せだよ。けど、美南が子どもが欲しいのなら、いてもいいと思う。たぶんふたりで子育ても楽しいだろうから。
夕貴と美南を見て思う。幸せだな、と。
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