第3話 愛の証

 ーー……ゆいちゃん、こよみはね、ゆいちゃんのことがだいすきだよ!だからね、ひっこししてもこよみのことわすれないでね……!


 肌寒い春の日、目にいっぱい涙を溜めながら私は結ちゃんとお別れをしていた。


 ーー……こよみ、またかえってくるからっ、かえってきたら、ゆいちゃんのこいびとにしてください……っ!

 ーー……また会ったとき、わたしに好きな人がいなかったらね。

 ーー……むー。こよみのことそうやってこどもあつかいするー!こよみはほんきなのに!

 ーーごめんごめん。将来のことはわからないからさ。暦だって引越し先で好きな人が出来るかもしれないじゃない?

 ーーっ!できないもん!こよみはゆいちゃんひとすじだもん!


 私がわがままを言うものだから、結ちゃんは困ったように笑っていたことをよく覚えている。


 別れから8年後、私はこの街に帰ってきた。

 そしてその1年後ーー。


「まさか、教師と生徒として再会するとは思わなかったな」


 私は引越しをしてからもずっと結ちゃんのことが好きだった。最初はキッズ携帯でメッセージのやりとりをしていたのだが、携帯を水没させてしまい、連絡先がわからなくなっていたのだ。


「……結ちゃん、私の気持ち覚えてるかな……?」


 切なさに胸が絞めつけられる。

 なぜなら。


「……薬指の指輪は、ペアリングだよね……?」


 そう。

 薬指には“愛の証”が輝いていた。



「おはよ、千夏!朝ご飯出来てるよ!」

「おはよう、結。いつもありがとね」

「いえいえ。晩ごはんは千夏が作ってくれてるんだからお互い様だよ」


 わたししか知らない千夏、その1。低血圧で実は朝が苦手。目覚まし5個とスマホを駆使している。


 しっかり者の千夏のイメージとギャップがあってかわいらしい。


「うーん、お弁当も結だからしてもらいすぎな気がするんだけどな〜」

「いいのいいの。千夏はゆっくり寝てて」

「朝活できる結がちょっと羨ましいな」


 わたしは早起きして毎日ジョギングと筋トレをしている。これは高校からの習慣だ。だから、わたしはスリムな身体を維持出来ている。


 実はと千夏がわたしに耳打ちをする。


 わたししか知らない千夏、その2。かなり着痩せするからわかりにくいけれど、千夏は胸がかなり大きい。そして未だに成長中だ。


「……じゃあ、週末下着買いに行こっか!」

「うん!」


 また、ブラがきつくなってしまったらしい。

 正直、ちょっと羨ましい。


 わたしたちは朝ご飯を平らげ、仕事に出かける支度をする。


「いってきまーす」

「いってらっしゃーい」


 今日も1日が始まろうとしていた。

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