第2話 片想いの賞味期限

「ーーわたし、2年2組の副担任だったよ。担任は岩見先生」


 ふたりで入るには少し小さい浴槽で、わたしたちの身体は密着する。


「いきなり副担任っていうのは珍しいね」

「クラスにΩの子がいるんだって」

「あぁ、なるほど。2年ってことは清水さんかな?」

「千夏、知ってるの?」

「去年授業したから。結構おとなしい子だったかな」


 するりと裸の肩に千夏がお湯をかけてくれる。春の夜はまだ肌寒い。


「実はね、暦は幼馴染なんだ。再会してびっくりしちゃった」

「世間は狭いね。けど、やりやすそうで良かった」


 わたしは千夏に背中を預け、猫のように頭を擦り付ける。


「ん?甘えん坊だね。どうしたの?」

「……初恋ってさ、何年有効だと思う?」

「……え?」

「暦の初恋の相手、わたしなの」

「告白されたのはいつ?」

「暦が小2、わたしが中3のときだよ」

「……それなら時効な気がするね」

「何もなかったように接しても大丈夫かな?」

「大丈夫だと思う……というか、あったように接しられたら私が困る。だって、結は私の大事な旦那さんだもん」


 ちくりと肩に痛みが走り、千夏に甘噛みされたことに気づく。

 あぁ、なんでこの人はこんなにかわいいんだろう。


「わたしには千夏だけだよ。しっかり身体に刻んであげる」

「え?ひゃっ?お風呂でしたらのぼせちゃうよ?」

「我慢できませーん。煽った千夏が悪いんだからね?」


 お風呂に甘い声が反響していた。


 ☆


「ーー結のバカ」

「ごめんって、千夏。あおぐから、横になって?」


 千夏は顔を真っ赤にして、目を潤ませている。


 パタパタとわたしは下敷きで千夏を扇いでいた。


「……私からも話があったのに」

「そうなの?ごめん!話聞くよ?どうしたの?」

「転勤先に花染先生がいたの」

「え?大丈夫!?何かされなかった!?」


 花染先生は結が高校2年生になる年に移動した、千夏に片想いしていた教師だ。


「何もされてないよ。ただじっと見られたりはしたけど。でも、結婚して名前変わってるし、さすがに人妻に手出しはしないと思うよ」

「……念の為にふたりきりにはならないように気をつけてね?」

 うんと千夏が頷いて、わたしは微笑む。


「晩ごはん、温めてくるからもうちょっと横になってて。今日のメニューは?」

「シーフードカレーとサラダだよ。ご飯はターメリックライスにしてあるよ」

「美味しそう。じゃあ、ちょっと待っててね」


 わたしはキッチンへと向かっていく。


「…………大丈夫……だよね……?人妻なんだし……」


 彼の熱はまだ覚めていない気がして仕方なかった。

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