第95話 千枝美、初怒られの危機!
「でも、英語部も英語の資格試験の勉強団体みたいになっちゃったし、室内楽部も、いま、部員、一年生だけだしね」
それで、
「そんなので、おひなさまのプログラムが埋まらなくって。寮から何か出せって言われてるんだけど」
桃子さんは横目で千枝美を見ようとして、見ずに顔を伏せた。
「無理だよねぇ」
「うん……」
無理だ。
いまのこの寮は、卓球部の子と美術部の子と、あとは、ほんのちょっと遠いだけの家に帰宅する時間も惜しいくらいの帰宅部、別名受験勉強部の子が大半だ。「おひなさま」は文化系の祭典ということだから卓球部は関係ないし、美術部の子は美術部でエントリーしてるだろうし、勉強にしか興味のない帰宅部の子たちはさらに関心ないだろうし。
しかし、どうしてそこまで勉強して、いや、勉強するのはいいけど、それでどうして成績が桃子さんや
「その、
「さあ」
どっちにしても、幽霊部活の幽霊部員としては、何とも言いようがない。
ユーレイ部活のユーレイ部員がユーレイになるってユったんだそうだ……。
それで、最後に残った一個のおまんじゅうに手を伸ばした。包装をむいて食べる。
けっきょくおまんじゅうは二人で食べてしまった。千枝美が四つで、桃子さんが二つだ。
桃子さんも身を起こして、ペットボトルのジュースをコップに半分くらい注ぐ。いまいっぱいしゃべってのどが渇いたのか、くいくいっと飲んでしまった。
千枝美もおまんじゅうをふた口で食べてしまったので、思わずそのジュースに手を伸ばす。
でも、甘いおまんじゅうのあとに、甘々のジュースというのは、どうなんだろう?
千枝美は何気なく言った。
「おまんじゅういっぱい食べて、できればここらへんで苦いお茶が欲しいですね」
言ったとたんに桃子さんがぴたっと動きを止めた。
自分のコップをテーブルに置こうとしている動きを止める。止めてそのまま千枝美を見る。
じっと見る。
さすがにおねだりはまずかったかな?
しかも、千枝美は、桃子さんが寝ているところに押しかけてきたのだ。
何の用事もないのに。それで、お茶をおねだり。
怒られる?
これまで桃子さんに怒られたことはない。あきれられたことはあっても。
初怒られ?
「あのさ」
でも、桃子さんはとても軽い声で言う。軽い声だけど、両方の、ちょっと茶色がかった黒い瞳でじっと千枝美を見ている。
まじめだ。
初怒られになるのかどうか、まだわからない。
「それ、あんまりずうずうしいよ」と言われたら、すなおに謝ろう。
ところが、桃子さんが千枝美に言ったのは
「それって、落語?」
ということばだった。
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