第94話 樹理にはお似合い
「
補足説明。
「あそこは名門すぎてあんまり広報しないから高校のなかでも知られてないけど、でも」
ここで、にっ、と、笑って見せる。
「あの
「たつえ、か」
何の考えもなく、繰り返す。それから
「え?」
と驚いた。
「短歌って、あの、きみがため、はるののにでて、とかいう?」
なんか違うような気がするけど。
「それ、百人一首でしょ?」
桃子さんは苦笑いみたいな笑いかたをして、もぐ、もぐ、もぐとみかんを食べてしまった。みかんの皮をていねいにたたんで、テーブルの端に置く。
落とすんだよね、こういう置きかたをすると。
「百人一首は古典の短歌だけど、近代短歌、ね。
「ああ」
そういう名まえは習ったような気がするけど。
「わたしには関係ないけど、でも、樹理ちゃんが? そんなのを? 作ってるんですか?」
一つずつ語尾を上げて強調してきく。
「うん」
言って、桃子さんはうーんと大きく伸びをして、また手を後ろについて体を伸ばした。
訂正。
この姿勢だと、テーブルの端のみかんの皮は落としようがない。
「寮委員会室にも『八重垣』っていう八重垣会の会誌、置いてあるよ。樹理ちゃんの作品も載ってるんじゃないかな」
寮委員会室は千枝美の部屋の向かい、そして、その樹理の部屋の横だ。
「
でも、日本文学部ってそんなに行きたい学部なのかな?
樹理はどうなんだろう?
日本文学っていうのとは、印象が違う。
理屈で通すタイプで、地歴の発表とかでも、ここにこう書いてあって、こっちではこうなっていて、だからこのあいだにはこういうことが起こっていたはずだ、とか、そういう主張をやる。どっちかというと「理系」の印象だ。
それよりは、あの
うどんなんかで科学部に釣って、悪いことしたかな?
まあ、それなら、うどん十杯とかで許してもらうことにして
千枝美の考えにはかまわず、桃子さんが続ける。
「そんなのだから、いいかげんなメンバーを抱えるよりは、選ばれた子たちでじっくりやりたい、っていうんで、宣伝みたいなのはほとんどやらないし、文化祭もおひなさまにも出ない」
うん。そうか。たしかに。
そういうのをきくと、やっぱり
「それは、樹理にはお似合いって感じですね」
と思う。
「そうね」
桃子さんも軽く笑った。
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