第93話 消えた部活

 だいたい山岳部なら文化系ではない。

 「山岳部じゃなくて三曲さんきょく部ね。三曲って和楽器の合奏のことで、本来は邦楽、日本の古い音楽の部活だったはずだけど」

 「そんなのありました?」

 桃子ももこさんは軽く笑った。

 「だから、その、友加理ゆかりさんのときのお騒がせ部活の」

 「ああ」

 その、茶道部の部室にたまっていて、何かというと人の足を引っぱりたがる三人組のうち一人の部活だろう。

 みかんをとって、またむき始める。

 「もともと部員がいなくて、ただ、和楽器を中心に、部の財産が残ってたんだよね。だから廃部にできなくてずっと休部のままで。だから、その若尾友加理さんのいた学年のお騒がせの子が復活させたんだけど、あとが続かなかった。あと、茶道部もね。すごい高い茶碗とか持ってるらしくて、やっぱり廃部にできなくて。これもその若尾友加理さんの学年のお騒がせの子がバンクーバーからモントリオールまでカナダを大陸横断しながらカナダの高校でお茶を披露ひろうして親善、みたいなのをやったんだけど、やっぱりあとが続かなかった」

 桃子さんは白い筋取りのプロセスに移行する。

 千枝美はジュースを一口飲んで言う。

 「そんなのがあったら、みんな入りそうなものですけど?」

 お騒がせの、というのではなくて、おことを弾いたり、カナダ横断でお茶を披露したり、とか。

 ところで、この桃のジュース、おいしいんだけどなぁ。

 でも果汁何十パーセントでもないだろうし、このどろっとした感じはどうやってつけているのだろう。

 「その三曲部もそうだけどね」

 言って、桃子さんは袋をはずして口に持って行ってまたちゅーちゅーする。

 そのあいだ、桃子さんの横顔を鑑賞しながら待つ。

 うん。さっきよりは目が覚めてるみたいだ。

 そのちゅーちゅーが終わってから、桃子さんは言った。

 「部を存続させるには、会計をきっちりしたり、新しい部員を勧誘したりが必要なんだけど、三曲部も茶道部もすごく輝いてる部員が一人いるだけでね。それで、たしかにそのカナダの話で入る一年生もいたらしいんだけど、さっき言ったでしょ? 部の活動をネットに書かないといけなくなったって。でも、だれも活動しないから、そのまま休部になって」

 みかんをひと袋食べる。

 「あと一つは、なんでしたっけ?」

 「技術家庭部ね」

 またひと袋。

 「これはさ、お菓子作って配ってたり、お昼にお惣菜そうざい作って売ってたり、あとケーキ作ったりしてたらしいんだけどさ」

 「へえ」

 そんな部活があったら、便利なのに。

 「でも、わたしが入学する直前かな? ノロウイルスとかがはやったときがあってさ、その、学校の偉いひとの一人が、部室なんかで調理したものを売ったり配ったりして大量食中毒とか出したらどうするんだ、とか強いクレームつけてさ。で、一時活動を中止して、部室の改装工事とかやったんだけど、けっきょく活動再開しないまま解散。それは、まあ、ねえ」

 桃子さんは、半分以下になってしまったみかんにぼうっと目をやって、言う。

 「きたない話でごめん、だけど、この部活に属するひとはひと月に一回は検便とか言われたら、それは、部員、逃げるよ」

 たしかに。

 それで、そのきたない話でごめんのあと、桃子さんはまたみかんをひと袋吸って食べる。

 「うちは、体育系の卓球部とバドミントン部と、文化系は八重やえがきかいと室内楽部と英語部が対外的にもやっていける部活だったんだけど」

 桃子さんがみかんを味わっているあいだに千枝美はジュースを一口飲んで、きく。

 「八重垣会ってよく聞くんですけど、なんか実態がよくわからないんですけど」

 たしかに名まえはよく聞く。

 というより見かける。

 学校新聞にもよく出てくるし、新聞の地方版とかにもときどき記事が載る。明珠女学館第一高校の八重垣会のなんとかさんが、みたいなのが。

 もちろん悪いニュースではない。いいニュースなんだろうけど。

 「ニュースがないのはよいニュース」というくらいで、いいニュースって印象に残らないんだよなぁ。だから、どういう記事だったかというと、まるで覚えていない。

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