第85話 謎の緑の液体の正体とは
ずっといっしょだった
ほかの瑞城の子たちもやってきて、その子たちのまわりに立つ。なんか瑞城の制服が目立つな、と思っていたら、その制服の子が二十人近くいる。
どうして瑞城の子が明珠女のイベントにこんなに来るんだ、と思ったけど、いやがらせや妨害に来たわけではないようだ。このおひなさまの会が、仲の悪い女子校どうしの和解の場になったのなら、それはいいことだ、と考える。
ま、そんなことはありそうもないけど。
だいたい、瑞城とのライバル関係がどうこう、と言う前に、明珠女の子たちのあいだもいろいろあって平和ではない。
でも、
離れているので実行はしなかったが、一つになる、っていうのは、こういうのを言うんだな、と、友加理は思う。
もともとこの歌のあと室内楽部の片づけの時間が取ってあり、その時間のあとに閉会になるはずだった。
でも、最初の
曲が終わりに近づいたところで、
「このまま閉会宣言しちゃって」
自分はそう言うと、少し後ろに下がって、お
佳菜子は
それで、お茶のスペースにいた
「
と小声で言うと、
「もう出てきますよ」
という返事だ。なんでそんなことがわかる、と思っていたら、
いちど靴を脱いで畳の上を横切り、こちらへと下りてくる。
前では、まなんかあたりにいたクララさんが後ろに下がって、どこかへ行こうとした。
あれ、クララさん、怒ったかな、と思う。
クララさんは、しばらくして、茶道部の子がかたまっているあたりの後ろに姿を現した。そこにいる子たちをかき分け、着物姿の
ぐえ、とみっともない声が漏れる。
体は大きいくせにそれほど体力のないらしい西部盛江はクララさんの押しには抵抗できず、そのまま前に出た。そこにすかさず里絵と里枝が行って、両手をつかんで引いてくる。
盛江が、歌っている留理子と、その斜め後ろの佳菜子のまんなかに来るまで手を放さなかった。とまどい顔の盛江を見て、座っていた二人の瑞城の生徒がぱちぱちと短く拍手をする。
盛江はそれで笑顔になった。
町野留理子と竹市佳菜子がみんなの前に立って、西部盛江がそれを見ている、というのはよくないと、クララさんは判断したのだろう。自分はすました顔で茶道部のメンバーのまんなかに立って、演奏を聴いている。
李咲は音響係のところに行って、あのお嬢様の
今年の
入れ替わりに、李咲がカメラを持ってお客さんたちの後ろに回る。
正実がヴァイオリンを止め、純音はそのまま伴奏を続けている。それをBGMに、蒲池結花里がアナウンスを流した。
「はい。えっと……時間が経つのは速いもので、いや、ほんとうに速いもので、って、そう感じてるの、わたしだけ?」
言って客席を見回す。みんな笑い、何人か、明珠女の生徒も大人の人も、「そんなことないよ」と答えを返す。
「ということで、でも、速いとはいいながら、とっても充実した時間を過ごさせていただきました。とくにわたしは、ふだんはできないことを、いっぱい経験させていただいて。ね。いろいろ失敗もしましたけど。ごめんなさいほんとに。あのお茶っ葉をかじるより苦いお茶飲んじゃった方」
「あ、いいよいいよ」
「いい経験だった!」
客席から声が飛ぶ。蒲池結花里ははずかしそうに笑った。
「はい。ありがとうございます。ありがとうございます。はい。みなさんもね、お茶あげますって言われて、それで異様にどろっとした緑の液体を出されたら、まず謎の緑の液体の正体とは、と疑うようにしましょうね。無理して飲んだりしたらだめですよ。でも、ああ、あれと、そのホワイトチョコレートのココアってミックスしたら、ちょうどいいんじゃない? いい抹茶チョコになりそう、というようなことを、まだ言ってます」
そしてまた首をすくめて笑う。客席にも笑いが広がった。
いちばん居心地が悪そうにして、うつむいてあいまいに笑ったのは西部盛江だ。
この「どろっとした謎の緑の液体」事件、ほんとうに悪いのはこいつだ。
自覚しているらしい。
だったら、最初からやらなきゃいいのに……。
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