第84話 歌姫をご紹介します
本部前で演奏する団体は室内楽部が最後だ。さっきは高度なクラシックの曲を演奏していた
室内楽部の紹介が終わると
そのお化粧直しは、
留理子が、佳菜子には出番があって自分に出番がないとくやしがって泣いたにしては、この二人は息が合っていた。
よくわからない。
それが終わると、待っていたゆかゆか蒲池結花里と二人で、「アメイジング・グレイス」をどうデュエットするか決めてしまった。相談しながら、長く歌ったり短く歌ったりしながら手直しして、仕上げてしまったのだ。
朝、留理子が蒲池結花里に敵意を持って押しかけてきたのが信じられないくらい、この二人の息も合っていた。
女の子どうしって、どんな関係でも、いざとなればぴったり息を合わせられるんだ。
うん。
そういうことにしておこう。
室内楽部の出番が終わる。
「行くね」
と、まず留理子に声をかけて、ほかの子たちにも軽く会釈しながら、蒲池結花里は表に出て行った。
蒲池結花里は、純音と正実に、ふだんの室内楽部の活動についてきき、それから、純音が文化祭実行委員長で、このおひなさまも純音が中心になって裏方の子たちを動かしているので成り立っているのだ、ということも紹介してくれた。
声だけきいているとほんと艶がある。
ゆかゆかは、全体でもきれいだし、容姿とか声とかだけ取り出してもきれいだ。
「ほんものの美人」ってこういうのなんだな、と思う。
着付けを直したら動けなくなって、同じ場所に棒立ちになったままの留理子では、及びもつかない。ここまで積み重なった留理子の悪い印象をぜんぶ忘れるとしても、そう思う。
「それでは、フィナーレのステージです」
蒲池結花里が高らかに告げる。
「いや、そういうのかどうかわからないけど、最後の何かの時間ですね」
一転して照れくさそうに言うと、お客さんがどっと笑った。たぶんあの笑いたがりの
「こっちは
こいつに耳打ちされるとこそばゆい。
何だろう。一年のくせに。
この色っぽさは。
ちょっと見るとただの元気っ子にしか見えないのに。
「会長はそろそろ表に出てください」
見ると、この時間になっても不景気な顔のままの
「志穂美も最後は表に来てね」
その伝言を李咲に託する。
がちがちに固まったままの留理子をそのままにして、お茶を出しているところを回って友加理も表に行く。
「では、ここで歌を歌ってくださる歌姫をご紹介します」
蒲池結花里が言う。
あれが姫かはわからないけど、ここはゆかゆかに任せよう。
「英語部の
ちょっとコケティッシュな蒲池結花里の声に合わせて留理子が緋毛氈の上に登場した。
最初はさっきの硬さを引きずっていた。
でも、そこから表側に下りてきたときには、もとどおり、いや、今日は一度も見せていない、自信たっぷりの英語の英才少女の顔になっていた。
やっぱり、女の子ってすごい……。
室内楽部の純音が電子ピアノで音を出す。それに合わせて町野留理子がゆっくりと歌い始めた。
純音が最初に音を出しただけで、あとは無伴奏だ。
留理子の声は低いところで通りがよく、音程も確かで、神様をたたえる曲にふさわしい凄みがあった。この留理子の歌声の前では、この曲がキリスト教の神様をたたえる曲で、それが日本の伝統をたいせつにする明珠女学館のイベントにふさわしいかどうか、なんて、どうでもよかった。
留理子が二コーラス歌ったあと、純音が伴奏を入れ、そこに正実がヴァイオリンの旋律を載せる。そのヴァイオリンが途切れたところに、蒲池結花里が拍手をして
「すばらしい歌ですね!」
と言う。お客さんたちもいっしょに拍手をする。それが収まったところで続けた。
「わたしも歌わないといけないんですけど、英語のチャンピオンと英語の歌をいっしょに歌えるって、すごく光栄なんですけど……でも緊張してます!」
また拍手が起こる。その拍手を迎えて、ナレーションを終えた勢いのままで蒲池結花里は歌い始めた。留理子がそれに声を合わせる。
蒲池結花里のほうが高い声を担当する。息はずっとぴったり合っている。
最後というので、
竹市佳菜子は、舞台の後ろのほうで、お
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