第70話 ひとつお知らせがあります
開会式を本部前で行うので、開会式に出る方はこちらに集まってくださいと案内しなければいけない。あと、ごみは持ち帰りましょうとか、梅の植わっている柵の内側には入らないようにしましょうとか、お手洗いはどこにありますとか、何かお困りのことは本部までとか、開会前からそういうことを放送する仕事があった。
MCは何もないときには
いや、たぶん、毛氈の上にマイクスタンドを置くと跡が残って毛氈を洗わなければならなくなるから、というのがほんとうの理由だろう。
第一声から蒲池結花里にしゃべらせるのも悪いと思って、最初は
「みなさま、おはようございます」
と切り出す。
「
春の観梅会って、観梅会は春しかないのだった。梅は春しか咲かないから。言うのなら「春の文化の祭典観梅会」だったのだが。
まあ、いいだろう。
「開会に先立って、ひとつお知らせがあります」
ここで間をとった。
目を上げて本部の前のほうを見回す。本部前には、明珠女の制服の子もそうでない人たちも含めて、十数人の人がもう集まっていた。
驚いたことにライバル校
去年はいなかった。箕部まで買い物に来たか何かのついでだろうか。
瑞城の子たちはこの制服にコンプレックスをもっているという。腰のところがきゅっと締まっていて、左側のファスナーで着たり脱いだりするというところはセーラー服と同じなのに、襟はセーラー襟ではなく普通のクラシックな襟だ。それがいやだという話なのだが。
胸に
いや、ライバル校の制服に気を取られているばあいではなかった。
友加理は続ける。
「今回の観梅会では、総合司会を、二年生の
明珠女の制服を着た子たちが何人も驚いてこちらを見ている。顔を合わせて何か話している子たちもいる。
「二大お嬢様」の一人の欠席はそれほどの関心事らしい。
友加理は続けた。
「そこで、急遽、こちら
向こうのほうで何人かが拍手した。
斜め前でかたまっているおじさんたちは、商店街の人たちだろうか。熱心に手をたたいて、蒲池結花里のほうを見ている。
瑞城の制服の子たちも、何の義理があるのか知らないが拍手している。
蒲池結花里がマイクの前に進み出た。
「ご紹介にあずかりました蒲池呉服店の蒲池結花里です」
商店街の人たちがまた熱烈に手をたたいた。
「いいぞっ! 結花里ちゃん!」
と声をかけた人もいる。
地元応援団がいるんだ。
まあ、この子ゆかゆかのなかなかの美人ぶりを考えればそれもふしぎではないが。
でも、だとすると、なおさらその茶道部室三人組とトラブルを起こさせるわけにはいかない。明珠女に対する県央の中心都市の印象が下がったらいろいろとたいへんだ。
「今日は、伝統ある明珠女学館第一高校の観梅会にお招きくださいまして、ありがとうございました。この大役を仰せつかり、身の引きしまる思いです。せいいっぱいがんばりたいと思いますので、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げる姿がやはり絵になっている。そして蒲池結花里はさっそくMCの仕事を始めた。
「では、あと二十分くらいですか。十一時より本部前広場で開会式を開催しますので、みなさまお越しください。あ、その前に場内のご案内ですね。正面の
きいていた明珠女の制服の生徒たちが笑った。
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