第69話 そんな人に会えるなんて
その子は小柄で、
つん、とした感じで、美人だ。
「おはようございまーす」
と
「あ、おはようございます」
友加理が返事して、だれだろうと思って見ると、
あの
「ああ、こちらが今日の司会者さんですね?」
「うん。
言うと、蒲池結花里はその場で立ち上がった。友加理もいっしょに立つ。
市辺正実が無愛想なままあいさつする。
「はじめまして。
「蒲池結花里です。よろしく」
「よろしく」
と型どおりのあいさつのあと
「純音は?」
といきなりきく。
「まだだけど?」
「ああ、もう!」
正実は声に力を入れた。
「茶道部室三人組から蒲池さんを守らなければいけないっていうのに、何やってるんだろう?」
ああ、まずいことをきかれた。
蒲池結花里が、首を傾げて友加理と正実を半々に見ている。
でも、考えてみればごまかさないほうがいい。
「ああ。茶道部室三人組ってね。部活はばらばらなんだけど、いつも茶道部室にいて、和服とか着るのが得意な三人組」
「茶道部の
正実が名を挙げる。
「町野さんって?」
蒲池結花里がさらに首を傾げた。
「中学校の一年で、県の英語コンテストで三位ぐらいに入ったひと?」
「うん」
正実が
「まあ」
蒲池結花里が胸の前で手を合わせた。和服はその動きで袖もいっしょに動くので、あでやかだ。
いや。
和服があでやかに動くような身のこなしを、蒲池結花里は身につけている、ということだろう。
その蒲池結花里が言う。
「そんな人に会えるなんて。さすが……」
「あ、いやいや」
正実は首を振って、蒲池結花里が先を言おうとするのを制した。
「才能はあるんだけど、陰険なやつでさ、三人とも。その三人とも、ふう子さんがだめだったら自分がMCだって思ってたみたいだから。だから、蒲池さんにその役をかっさらわれたと思って、何やってくるかわからないよ」
初対面の子にけっこうずけずけ言うなぁ。蒲池結花里がおびえたらどうするんだ?
「ああ。まあ、あんまり気にしないで」
友加理が、正実が続きを言うのを抑えるようにして、蒲池結花里に言う。
「だから、そういうのがあったら、わたしたちで止めるから」
あの子たちならば、蒲池結花里がほかの学校の生徒だからって遠慮なんかしなさそうだな、と思う。深刻に考える必要はないけど、気をつけていたほうがいい。
そんな話をしているところに
制服を着ている。ふだんから無愛想な子で、朝はとくに無愛想だ。蒲池結花里とあいさつしても
「あ。よろしく」
とぼそぼそ言っただけだった。それだけならいいが、じっとうかがうように蒲池結花里の顔を見ていて、目を離さない。
どうしたのだろう、と思って、さすがに志穂美に注意しようかと思ったところへ、
「ごめぇん!」
と言いながら岡村純音が来た。
緊張感が音を立てて消え失せた。いや音は立たないけど。
純音は、ワインカラーというのか、落ちついた赤系の色のスーツを着ている。
思いのほか似合っていた。ただ、その襟のところが大きく開いているのは、どうなの?
少なくとも、その、季節的に。
「遅いよ、純音」
「え、だって……」
と市辺正実と二人で話を始めた。茶道部室三人組の話から話が
そのあと、生徒会のメンバーが揃ったので打ち合わせを始めた。友加理から蒲池結花里を紹介し、蒲池結花里も
「
とあいさつした。
段取りは前に蒲池結花里に説明したとおりだったし、蒲池結花里は地元の人らしくこの公園のことはよく知っていたので話は早かった。しかも、蒲池結花里は渡した資料に書いてあったことをだいたい覚えてきていた。
友加理が他校に手伝いに呼ばれたら、こんなにそつなく、こんなにまじめに取り組めるだろうか?
それとも、蒲池結花里のこの熱心さは、この街で「明珠のおひなさま」が知られていることの
それとも?
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