第61話 説明させていただいていいですか?

 友加理ゆかりは続ける。

 「それで、明珠女めいしゅじょの生徒で代わりが務まる人を捜したんですけど、それが見つからなくてですね」

 「はい」

 「それで、急な話で申しわけないんですけど、あなたに明珠のひな祭りの総合司会をお願いしたいと思って」

 「あ、はい」

 言って、首を軽くかしげる。

 この子は背の高さは友加理と同じぐらいだ。その子が、目のまえで、赤い着物を着て、左手で軽く右のたもとのところを押さえて立っているのは、場所柄からしてあたりまえでもあり、でもそうでもないようでもある。

 店先の棚には小物が並んでいるこの店も、店のなかは晴れ着や振袖のサンプルがいくつも展示してあって、しかも外よりずっと明るくて、外とは空間に漂う雰囲気がぜんぜん違う。

 照明はまっ白で、壁はクリーム色、床は黒で、緑や淡い黄色や赤がそのなかで絶妙なハーモニーを作っている。

 そのなかにこの子がいた。

 明珠女の制服にコートを着て、はずしたマフラーと鞄を持って立っている自分が、場違いなほこりっぽい存在に見える。

 相手の子は軽く眉を寄せてみせた。

 「わたしは明珠女学館の生徒ではないですけど、いいですか?」

 すかさず答える。

 「ええ。もちろん」

 でも、明珠女の生徒でないということは、大学生か社会人かも知れない。歳の差があるようには見えないけれど、この落ち着きようと接客に慣れたところは、高校生離れしているとも思った。

 それで、聞いてみる。

 「どこかの高校の生徒さんですよね?」

 「あ、はい」

 きかれた一瞬、この子はやはりとまどった顔をした。でもその表情はすぐに消した。

 「高校二年生です」

 「よかった!」

 うそをついているようには見えない。

 どこの学校だろうか。住んでいるのが箕部だから、箕部の近くの公立だろうか、箕部の有名な私立だろうか。

 もしかして、名門の新治にいはり附属ふぞく

 でも、それをきくと、話がれるかも知れない。

 「じゃあ、ぴったりです。総合司会は二年生が務めることになってますから」

 「でも、総合司会というと、明珠女学館さんのご事情がわかっていないと務まらないのではありませんか?」

 あくまで営業向けのことばづかいを崩さないで、相手の子は友加理にきく。

 「あ、だいじょうぶです」

 友加理のほうも余裕が出てきた。

 うまく行きそうだ。

 「資料をお持ちしたので、説明させていただいていいですか?」

 「ああ、どうぞ」

 相手の少女は言ってほほえんだ。

 「まずお上がりください。こちらでご説明をうかがえれば」

 友加理はほっと息をついた。

 その顔を、目を細めて、相手の少女が見ていた。

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