第56話 三人とも却下
もしかすると、何か思いついたとさとられたかも知れない。志穂美は、ちょっと見たところはただの暗くて鈍い子のようだけど、意外に鋭いところがある。
「あさってまでにかわりの子なんか見つけられないよ」
普通に
友加理はおもむろに言った。
「安野夏子がかわってくれればいいんだけど、まだ一年生だからね」
「うん……」
純音が不景気にうなずく。
これで有力候補の一人は消えた。友加理はすぐに続けて言う。
「こうなったら純音がやるしかないよね」
ここで純音が「うん」と言えばいま友加理が考えていることはご破算になる。でも、文化祭実行委員長の純音が引き受けるならば、それがいちばん自然だし、それでいいと思った。
「だめだよ」
でも、純音は不機嫌に言い、口を横に結んだ。
暖房を入れていない部屋で、純音と志穂美はマフラーを巻いたままだ。純音はその結んだ口をマフラーの後ろに隠す。
「着物なんか着たら、三十分ももたないで型くずれしちゃう」
それは違う。
違わないにしても、言うことが控えめすぎる。
きっと
ただ太っているからだけではない。この子は何につけても動きすぎるのだ。
「うん……」
「まあ、そうだよね」とは言わないで、目を合わせないでそうつぶやくだけにしたのに、純音は恨みをこめて友加理をにらむ。
そして非難がましく言う。
「そんなんだったら、友加理がやればいいじゃない? あんただったら段取りもわかってるし、司会進行とか得意だし、それに着くずれもしないだろうしさあ」
そう来るのは考えていた。友加理は落ちついて言い返す。
「わたし、そんなに着付けはうまくないよ。それに新聞部の仕事もあるから、無理なんだよね」
それで、少し考えるふりをして、提案する。
「この際、茶道部の
西部
この三人はいちおう仲がいいらしく、クラスは別でもいつもいっしょにいる。
「三人とも却下」
純音はますます不機嫌だ。それにしても生徒会長に対して「却下」とはよく言ったものだ。
純音の考えていることは見当がつくが、気がつかないふりをして言い返す。
「え? だって、三人とも着付けは得意だよ? 西部さんは秋の文化祭でも半日座ったままお茶を
「だめ!」
純音は重ねて強く言い返す。
「三人とも性格に問題あり! あんなのにMCやらせたら何やりだすかわかったもんじゃないよ」
また純音が大きい声を張り上げる。
「だいたい三人のうちの一人に頼んだら、あとの二人が何やるかもかわかったもんじゃない! それも仲間の足を引っぱるためにさあ。そんなののめんどう見るのはごめんだよ!」
たしかに、この三人は「三人寄れば文殊の知恵」ではなく「三人寄ればかしましい」ほうだ。
友加理の知っている範囲では、西部盛江はまじめな努力家だ。竹市佳菜子は根性なしの甘えんぼうだけど性格が明るく、機嫌がいいときには普通にしゃべっているだけでまわりの機嫌までよくしてしまう。町野留理子は何も努力しなくてもいい成績が取れる。一種の天才だろう。
一人ひとりはそれぞれ見所のあるいい子なのだが、三人集まるとすぐにろくでもないことを考える。向上心が強いのはいいが、嫉妬心も強くて、すぐに共謀して人をおとしいれにかかる。しかも共謀しておいて同時に仲間を出し抜こうとするからややこしい。
中学校からいっしょだった純音はこの三人組の術中にはまったことがあるらしい。この三人と仲が悪いわけではないらしく、普段は楽しくおしゃべりしていたりするのだが、根本のところで信頼していない。
だから、純音がそういうことを言うだろうとは思っていたけど、ここまで激しい反応が返ってくるとは思わなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます