第51話 魔法の地味な制服

 「いや、わかるはずだよ」

 桃子ももこさんが意味ありげに言う。

 「千枝美ちえみだって、瑞城ずいじょうの子、一年間、見てきたでしょ?」

 「それは」

 すぐ隣が瑞城の寮なので、駅に行こうとすると、瑞城の子と前後ろになったり、すれ違ったりする。それで、駅まで行くと、待合室でやっぱりほとんど必ずいっしょになる。

 でも、千枝美だって、瑞城の子と話なんかしたことはない。軽蔑する気もちなんか持ってないけど、でも、やっぱり何か怖い。

 あれ?

 瑞城の子を軽蔑する気もちをもってないってことは、あいといっしょ?

 ということは、千枝美もかわいそう?

 そんな……!

 桃子さんはくすんと笑った。健康な紅い頬で。

 言う。

 「制服よ、制服!」

 言ってまたくすくす笑う。

 「ああ」

 わかったような、わからないような。

 瑞城の制服はセーラー服の襟だけ普通のシャツの襟に変えたようなデザインだ。腰のところで締まったデザインとか、左脇のファスナーを開閉して着ることとかはセーラー服といっしょだけど、襟がセーラー襟でない。夏服はまだ普通だけど、冬服だと、紺色ののシャツの上に何も着ていないように見えて、「あれ? 上着忘れて来たの?」と言いたくなるような「肩すかし」感がある。

 加えて、ネクタイもリボンも何もなし。胸のところに地味なひだ飾りが入ってるだけで。

 でも、明珠めいしゅじょの制服だって、何の飾り気もないブレザーとスカートなんだけど。

 「でも、そんなに違わないと思いますけど?」

 「そう思うのはこっちの感覚で、向こうにしてみれば違うのよっ」

 桃子さんはジュースがまだ入っているコップを両手で持って、楽しそうに言った。

 「つまりね。お嬢様度が高いわけでしょ? 明珠女より。それなのに、制服はおんなじように地味ってことになると、それはフラストレーション溜まるよね?」

 笑って、首をかしげる。

 「じゃあ」

と、千枝美は感じたままを言ってみる。

 「お嬢様学校なら、もっと派手な制服にしたらいいじゃないですか?」

 入学試験を受ける前に調べた。もっと華やかな制服の学校はいくらでもある。

 千枝美は、そんなことは気にせず、制服の地味な明珠女学館第一を選び、わりと猛勉強をしてこの学校にやって来た。

 澄野すみの愛ならば猛勉強しなくても入れたであろうこの学校に、猛勉強して入って来た。

 少しくらいなら褒めてもらってよさそうだ。

 「そんなことしたら、わがままお嬢様がさらに野放しになるじゃない?」

 桃子さんはさっきよりもっと楽しそうだ。

 「そうならないように、魔法の地味な制服でそのわがままさを封じ込めてるのよっ」

 「ああ」

 完全に納得したわけではないけど。

 「それはフラストレーション、溜まります。うん、確かに」

 そのフラストレーションが溜まってるところに、樹理じゅりがあの調子で注意とかしたら、それはいたずらしてせいせいしようという気もちも起こるだろう。

 樹理はわかっていないのだろうか?

 いや。頭のいい樹理のことだ。わかっているだろう。

 わかっていて、それでも許せないのだ。

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