第49話 樹理が起こした事件
「ところでさ」
桃子さん。
その意味ありげな流し目は、何?
「千枝美! もっと近くに来て! 千枝美がずっと好きだったんだよ。もうその自分の気もちをどうすることもできないんだ。だから、その唇を……」
……とかでないのは確実。
だとすると?
「
やっぱり。
考えていることはいっしょなのか、それとも千枝美が樹理のことを考えていたのを見抜かれたのか。
桃子さんは鼻から短く息をつく。続けて言う。
「また
えっ、と思った。
たしかに、ちょっとした騒ぎにはなっていたのだけど。
その話、学年の違う桃子さんまで、もう伝わってるのか!
寮委員長なんだから、寮生の身に起こったことをいち早く知るのが当然なのかも知れないけど。
「ああ」
千枝美は短くそう言ってから、ジュースを一口飲み、やっぱり流し目で桃子さんを見返す。
とても大人びたことをやっている感じがする。錯覚なのだろうけど。
「
説明する。
「そしたら、たぶん、その注意してるあいだに、瑞城の子の一人とか二人とかが後ろに回りこんで、樹理のスカートの端っこのところを新聞のスタンドに絡ませちゃったか何かしたんですよ、たぶん。レジの横のところの、夕刊とか立ててあるやつに。それで、瑞城の子が、急にしおらしくなってごめんなさいって言って出て行ったんで、樹理ちゃんも出て行こうとしたら、新聞のスタンドにスカート引っかけてひっくり返しちゃって。あれって金属製で、すっごい大きな音がするし、レジの前に新聞が散乱して店のひとは慌てるし、さっきまでいた瑞城の子たちとか待合室にいた瑞城の子たちとかがいっしょになって大笑いして」
「で、また泣きそうになって帰って来たわけね」
「そういうことです」
さすがに桃子さんも笑ってはいない。また唇を閉じたままため息をつく。
「あの子もなぁ」
言って、いったんことばを切ってから続ける。
「そうなるの、読めてよそうなものなのに」
読まないのだ、それが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます