第28話 シフォンケーキをどう食べる?
そこに、
優が見上げると、その満梨さんは笑ってくれた。その笑顔は大人っぽい感じだった。
「ごゆっくり」
そう言って満梨さんは去っていった。
優は、自分の受験の出来について話をするのをやめた。
皿の上には、シフォンのケーキを八分の一くらいに切ったのが載っていて、それに生クリームが添えふある。
うわっ、おいしそう、と思って目が輝いたのが自分でもわかって、なさけない。
さっきの試験で、そこまで体も疲れていたんだな、と思う。
姉に、いまの気もちを覚られただろうか?
そこで、不服そうに言ってみる。
「なんで紅茶に紅茶のケーキ?」
「そっちのほうが合うと思わない? 紅茶のケーキにコーヒーじゃ合わないよ」
合うとか合わないとかわかるほど立派な味覚してるのかな、この愛って。
「それにさっき生姜って言った?」
「うん。生姜って言ってもジンジャーって言ってもいいけど」
ジンジャー?
愛が? 愛がジンジャーって言うの?
似合わない……。
「愛って生姜なんかそんな好きだった?」
「嫌いでもなかったけど好きでもなかったよね」
愛は正直に認めた。
「でもさ、自分でこうやって」
と、愛はテーブルのちょっと上で右手を軽く前後に動かして見せる。
「生姜下ろしたりしてると、さ。それに、生姜で体があったまる、っていうのも、この冬で実感したし」
「ああ」
優は紅茶にミルクを注いだ。ケーキにいきなりぱくっと食いつくのは子どもっぽいと思った。
「寮で暮らしてると、そんなこと実感するんだね」
姉には皮肉っぽく聞こえたかな?
それならそれでいいと思う。でも、いまのは皮肉じゃなくて、ほんとに新しく知ったことなんだと伝えたくもあった。
「ま、いろいろね」
言って、愛は生クリームをいっぱいのせて、シフォンケーキを大きく切って口に運んでいる。
その大きなかたまりを口で迎えに行って、大きく口を開いて。
ぱくっ!
こ、こら!
せっかく妹がそんなことをしたらみっともないと思ってがまんしているのに!
そうだ。
その寮生活というのが愛を変えたんだ……。
と、そこまで思ったときだった。
店の扉が開いて、扉についたベルが鳴った。
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