第27話 妹をはめたとろい姉
「それにさ」
言って、目を閉じる。
「後ろにうるさい子がいてさ。それが昼休みにその友だちらしい子と大きい声で答え合わせやってたんだよね。その答えが10ぴったしとかでさ。それで、あっ、と思ったんだ」
「
「優って、そんな他人指向型ではなかったはずだけど」
「他人指向型」というのは、なんだか社会の科目で聞いた気がする。それ以上は思い出せない。
「指向はしてないけど、後ろでずっとそんな話してるんだもん。気になるよ」
答になっていないというのはすぐわかった。そういうのをたぶん他人指向型というんだ。
愛はさらにきく。
「でも、たとえ国語と数学で失点しても、あと三教科で取り返すっていうのがあんたのやり方でしょ?」
ああ、そうだ。
休み時間に復習ができなかった。
ふだんならそんなことを気にしたりはしないのに、今日に限って気にしたのは、その数学の失点を残りの科目で取り返そうとしたからだ。
そして、あせって、注意が散漫になってしまった。
「まあ、さ」
愛は顔を上げた。顔は窓の外を見ている。
「帰ってから自分で採点してみなよ。わたしは怖くてできなかった」
「愛は、怖くて、じゃないんだ」
思うより先に言っていた。
「自分で、自分は怖い、って思ってるだけ。ほんとは、自信があるからやらなかったんだ」
そこで、息を軽くすっと吸って、愛の顔をのぞきこむ。
愛は優を見ていなかったけれど、のぞきこまれて、軽く迷惑そうに優の顔を見た。
「だって、ほんとうに不安だったら、愛、ばたばたってして、確認のため解いてみるでしょ? そういう子だよ、愛って。なんとかをなくした、どこに置いた、って、いつも部屋でばたばたしてたじゃない」
「うん」
愛は軽くうなずく。
「いまもそうだよ、わたし」
いまも、というのは、あの寮でもそんなことをやっているのか。
自慢にならない。
少なくとも、自分から言うことではないと思う。
優はつづける。
「だからさ、愛がほんとに不安なときはそんなふうにばたばたするんだよ。愛が、ばたばたせずに、ただ「怖い」って自分で言うのは、それは自信といっしょなんだよ。自信の裏側、裏返しっていうのかな、それなんだよ。それは愛の「怖い」の全部がそれじゃないかも知れない。でもさ、去年のあれは、そうだよ。だって通ったじゃない? しかも、わりと成績いいほうなんでしょ?」
「ま、いまのところ、ね」
愛は言う。
「ほらまたそういう……」
言って、愛が得意そうに笑って、横目で自分を見ているのに優は気がつく。
優がそう言うだろうと、愛はわかっていたのだ。
とろい姉にはめられた。
むっとする。熱い怒りが湧いてくる。
そして、それはさっきのように胸のところでつっかえるように止まったりはしなかった。かわりに、その怒りが、化学変化でも起こしたように「ま、いいか」という思いに変わる。
その思いが、顔じゅうからぱっと散って行った。
この姉、いまは、成績、学年で何番ぐらいなんだろうな、と思う。きこうかどうしようか、迷う。
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