第25話 満梨さんのお店で
ほとんど何も話さないで着いたその「
店の手前がショーケースのある洋菓子屋さんで、その奥と窓際にテーブルと椅子がある。窓は駅前の大きな広場に向いていた。
急に天気がよくなったからだろうか、店は混んでいた。
向かい合って座る席はもう残っていないというので、姉妹は窓際のカウンター席に並んで座った。そこからだと広場が目のまえに見渡せる。
受験生らしい子の姿は
優は広場を見下ろした。
広場ももう夕方で、日陰になっている。東へとまっすぐに続く大通りが夕日に照らされていた。
広場のまんなかのあたりは白いきれいな雪が残っている。まわりは土と混じって黒くなり、どろどろのきたない雪だ。
その泥雪をはね上げて、チェーンをつけたバスが走っていく。その姿は、未知の海に航海に出ていく船乗りの船のように勇壮に見えた。
勇壮……か。
「何になさいますか?」
後ろから近づいてきた店員が、二人の前に氷水を置きながらきく。
隣の姉とあまり歳が変わらなさそうだ。
頬が赤い。それに店員さんの中でこのひとだけ赤い服を着ている。
その店員さんは振り向いた
「あ、愛ちゃん」
と言った。
知り合いということは、このひとが「満梨さん」というひとなんだろう。
その愛は、姉につられて振り向いた優を
「妹の優。
と紹介した。
そんなこと言わなくていいのに!
店員さんは軽く優に笑いかけてから、愛にきく。
「何にする?」
「あ、じゃあ、ミルクティーと、なんて言うのか知らないけど、紅茶と
愛は勝手に注文する。
「うんっ」
かしこまりました、とも言わず、その店員さんは戻って行った。
ふだんならば、少なくとも、愛、何を勝手に、と、ひとこと言うところだ。
いまも言おうとしている。
でも、ことばが詰まったようになって、声が出ない。
愛のほうを見ると、愛は、自分の氷水に両手をあてて、広場のほうに目をやっている。
こんな寒い日に、氷水で手を冷やしたいのだろうか?
それで、ふっとため息のような大きな息をついて、愛は優のほうに顔を向けた。
「うまく行かなかったんだね、優」
「……」
詰まったことばが、さらに詰まって、押し出そうとしても出てこない。
でも、ことばが出ないと、そのまま泣いてしまいそうだ。
そんな。
こんなところで泣いてしまうなんて!
姉の前で、ということはどうでもいい。こんな、いっぱいお客さんのいる店のなかで。
まずのどの力を抜く。息が漏れた。
それで、声が出せそうになる。優は言った。
「なんで、わかるの?」
「それはそうだよ」
続けて「お姉ちゃんだもん」などと言ったら、ぶっ飛ばしてやろうと思う。
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