第24話 どこかでお茶を

 「寮に上がる?」ときかれて、ゆうことわった。

 ほんとうはこの寮には入ってみたかった。

 姉のあいがどんな暮らしをしているのかも見てみたかった。

 それに、と、優は、朝に見かけた姉の同級生か上級生のことを思い出しそうになって、思い出すのを止めた。思い出すとよけいに心が苦しくなる。

 「じゃ、優さえよければ、どこかでお茶とか飲んでいかない?」

 「え、でも」

 ほうっておいたらひとりでに「いいよ」という断りのことばが出るはずだった。

 ほかの受験生のほとんどは、この学校に姉妹が通っているわけではないのに、自分だけが……という理屈が続くはずだった。

 でも、それで有利になるのは試験前だからだ。試験が終わってからはその理屈は通用しない。

 いまの疲れ切った頭では、優は姉の理屈をはね返す理屈を考え出すことができなかった。

 「うん。じゃあ、さ」

 優は、だから、条件をつけることでせめてもの抵抗をすることにした。

 来るときに、降る雪のなかで見た店の姿がよみがえってきた。

 姉は、たぶん、行き慣れないお店ならば、ためらうに違いない。

 「駅の斜め前のケーキ屋さんか何か、あるでしょ? そこに連れてって」

 「うん? ああ」

 姉はこのままとまどったところを見せてくれるのかな、と優は思う。でも、愛は言った。

 「満梨まりさんのところだね。うん。行こうか」

 優しい笑顔で。

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