第4章:澄野 優
第22話 ふだんとは違っていた
試験は終わった。
答案を集めた試験監督の先生が出て行くと、教室は急にざわつき始めた。立ち上がってコートを着たり、マフラーを巻いたり、友だちといっしょの教室になった子たちはおしゃべりを始めたり、試験中はしまうよう言われていたスマホを取り出してスイッチを入れて何かを見たりしていた。
席の後ろの、ずっとうるさかった子二人が、また大声で話している。
「あ、問題、もう発表されてるよ」
「えーっ? そんなのいま見たくないよーぉ!」
いま受けた
黒に黄色のストライプが一本斜めに入ったシャツを着た子が優のすぐ後ろにいて、その斜め後ろに、明らかに化粧してきたらしい頬の赤い子がいて、これまで試験時間以外はその二人でずっとしゃべっていた。試験用紙が配られる直前までしゃべっていて、試験監督の先生に注意されていた。
この二人のせいだ、と思う。
休み時間に見直しができなかったのも、ふだんならば解けるはずの問題が解けなかったのも。
そしてすぐに打ち消す。
休み時間にていねいに見直しをしたりするのはあのひとのやり方で、
それなのに、今日は……。
だれが声をかけてくれるわけでもない。知り合いは一人もいない。同じ中学校からこの明珠女を受けに来たのは優一人だけだ。
そういう場所に来ると、優は、近くにいる子に話しかけて友だちになってしまう。ふだんの優ならば、斜めに派手なストライプの入った黒いシャツの子やその友だちの化粧をしてきた子をうるさく思うのではなくて、その子たちに声をかけていっしょにしゃべることを選んでいただろう。
でも今日は違っていた。
優は一人立ち上がり、だまってコートを着て、忘れものがないかどうかをチェックする。
ほかの受験生の子たちがみんな出て行ってから、机を離れた。
試験の開始が遅れたので、外はもう夕方だった。
玄関を出ると運動場は雪で覆われていた。もう雪は降っていない。天気予報のとおり空は晴れている。まっ白な雪が、校舎の後ろからの夕日を浴びてやわらかに朱色に光っている。
その雪を見ていたら涙が出そうだ。
優の教室では優が最後だったけれど、ほかの教室からはまだ受験生たちが出てくる。そのなかに混じって、雪を取り除いたコンクリートの通路を伝って門のほうに向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます