第20話 勉強しよう

 さっきだって、と、樹理じゅりは思う。

 表の道の雪かきなんてあいがやる義理はないのだ。もっと言うと、受験生がけがをしないように雪かきをするのは、学校の仕事であって、寮生の仕事ですらない。

 そういう愛のお人好しなだけの「善」にしばらくぶりに出会って、さっきはいらだってしまった。そのいらだちを桃子ももこさんにぶつけてしまった。そして、さらにそれを愛にきかれてしまった。

 また、ふっ、とため息をつく。

 愛が出て行ったのは、その樹理に腹を立てたから、すくなくとも樹理のそばにいたくないと思ったからなのかな。

 樹理の部屋が一階にあるのを知っていて、樹理が階段を下りてくるのを避けるように出て行ったのだから。

 いや。考えすぎだ。

 きっとそうだ。

 愛は、その受験に来るという妹を迎えに行ったのだ。

 考えを、その先に進めないようにしたい。その先まで考えると、今度は、じゃあ妹を迎えに行かなければいけないのに、なぜ愛は雪かきをしようなどと言い出したのか、それを考えなければいけなくなる。

 「勉強しよう」

 家で、ほかの家族が起きるまで、勉強をしたり本を読んだりして待っていた。

 宿題はぜんぶやってしまったけれど、教科書を見ていると、数学で次のところを終わるとたくさん宿題が出そうだ。

 そのうち、できるところをいまのうちにやっておこうと思う。

 樹理は、やっと部屋の入り口から靴を脱いで部屋に上がり、窓際に置いた勉強机のところまで行った。

 数学の教科書とノートを出して、問題を解き始める。

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