第11話 お揃いの姉妹

 昨日、お母さんが電話をしてきて、明日は雪らしいからゆうをひと晩泊めてやって、と言ってきた。

 「うん、いいけど……」

と答えた。その答えで、あまり気が進まないことがお母さんには伝わってしまったらしい。

 「なんですか! 妹のためでしょ?」

と不機嫌に言われてしまった。

 本当に優が泊まりたいと思ってるならいいけど、と言えればよかった。

 でもお母さんには言えなかった。

 お母さんはあいと優は心の底から仲のよい姉妹だと思っている。その思いを壊したくはなかったし、だいたい説明するのが億劫おっくうだ。

 優は泊まりたいとは思っていない。泊まったら、あとで思い出したときに、もしかして前の晩に「あのひと」に泊めてもらったから合格できたのではないか、などと思わなければいけなくなる。

 それは、あの子にとっては絶対にいやなことのはずだ。

 「うん。じゃあ、優が来たら泊まれるようにしておく」

と言って電話を切った。

 家族であっても、外部のひとをここの寮に泊めるのはめんどうだ。異性がだめなのはもちろんとして、同性でもほんとうは一週間前に許可を取らないといけない。

 お母さんはそのめんどうさもわかっていない。

 もっとも、実際には、寮の出入りなんてだれもチェックしていないので、無許可で泊まることもできる。

 文化祭の前など夜中に寮の中で寮生でない子をよく見かけた。たぶんだれかの部屋に泊まっていたのだろう。寮委員会も黙認していたらしい。

 ただ、部屋にはベッドは一つしかないので、部屋を取らずに無断でだれかを泊めるとベッドで眠れるのは一人だけ、あとは床の絨毯じゅうたんの上で寝なければならない。

 無断で泊めたとして、優を床に寝かせるわけにもいなかい。優にベッドを譲ってもいいのだが、「あのひと」のベッドで寝るのを優はいやがるだろう。

 一階まで下りて寮委員会の部屋に行く。委員会部屋にはだれもおらず、電灯も消えていたし、部屋は鍵がかかっていた。ほっとする。

 今度は階段を三階まで上がる。階段上がってすぐの白川しらかわ桃子ももこさんの部屋の扉をノックする。

 桃子さんは寮委員長だ。委員会で決めなければいけないことのほとんどは、実際にはこの桃子さんが一人で決められる。

 桃子さんがいないとまためんどうなことになると思ったけれど、

「はあい」

と言って、すぐに桃子さんが顔を出した。

 暖かそうなチェックの服に赤いカーディガンを着ている。頬の豊かな丸い顔が健康そうだ。

 頬が赤く、歯が白くて、美人だ。多少ぽっちゃりしているけれど。性格が明るく、だれとでも分け隔てなく話をする。いま二年生で、頼りになる先輩だ。

 「あ? 愛。何?」

 桃子さんがきく。愛は、妹が明日この高校を受験に来ることを説明し、雪が降りそうなのでこの寮に泊まりたいと言っていると言った。そして、

「規則違反ですけど、今晩、妹に部屋を貸してもらえないでしょうか?」

とお願いする。

 桃子さんはきょとんとした。

 「何? 規則違反って」

 「だって、部屋を借りるのは、一週間前に申請しないと……」

 桃子さんはぷっと吹き出す。

 「あ、いいよいいよ、そんなの。どうせ部屋なんかいくらでも空いてるんだし。ポットやお湯飲みもすぐ揃うし、布団とかもだいじょうぶでしょ」

 勢いよくつづけた。

 「名まえだけ教えて。住所は、愛のとこといっしょだよね? ご両親の名まえも、もちろん。家の電話とかも」

 「あ、はい……」

 桃子さんの勢いのよさに押されて、まずそう返事してから

「あ、妹の名まえでしたね。優、です。澄野すみの、優。優しい、っていうか、優れている、って字を書きます」

と説明する。

 「いい名まえだね。でも優しいの優って言ったほうがいいよね」

 桃子さんはそう言ってから、

「愛と優で、お揃いだね」

と言って笑う。恥ずかしそうに首をすっこめて

「そうなんです」

と愛も笑って見せた。

 「じゃあ、やっとく。優ちゃんには、安心して、って伝えてあげて」

 桃子さんが言ったので、

「お願いします」

と頭を下げた。

 桃子さんが扉を閉める。

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