第9話 熱い気もち

 そのひとが、ふっ、と窓の外に目をやった。

 「見つかった!」

と思う。

 とっさにさっき考えた言いわけを復習していた。身動きはしない。動くとかえって目立つ。

 そのひとは、つっ、と立ち上がり、窓の外に体を向けた。

 ゆうを見ているのではない。優のいるところよりは上に目をやっている。窓の外に手を出し、手のひらを上に向けて薔薇ばらの上で左右に動かしている。

 雪がどれくらい降っているのか、確かめているのだ。

 着ているのはやはり白い毛糸のカーディガンだった。下は襟付きのシャツを着て、きっちり上までボタンを留めている。

 そのひとは、ごろごろと音をさせて窓を閉め、カーテンをさっと引いた。

 たぶん、部屋の換気をしていたのだろう。

 中のようすは見えなくなる。

 優は、しばらく身動きができなかった。

 体が震えそうになるのを、体の表面をこわばらせて抑えている。

 あの、凜々りりしい、意志の強そうな顔と、ぴんと伸びた背筋、そして、何度やっても崩れないしぐさ……。

 体の動きのしなやかさ。

 優は、ふっと背を伸ばすと、外へと歩き出した。

 「開放厳禁」の扉から外に出ても、あの雪かきをしていた生徒たちの姿はなかった。どこか別のところで雪かきをしているか、寮に戻ったか、どちらかだろう。

 体に力がこもった。

 絶対に、明珠めいしゅじょに合格して、この寮に入る!

 「絶対に」などと考えなくても、この高校には合格しそうだったし、合格すればこの寮に入ることも決めていた。

 しかし、これまではこんなに熱くはならなかった。ただ、あのひとと離ればなれだとみょうに寂しいから、というあいまいな動機だった。

 でも、いまは違う。

 この寮に入れば、いま見た一階のひとの近くにいられる。あの横顔を、そしてそのしぐさをいつでも見ることができる。

 ことばだって交わせるかも知れないし、もしかするともっと親しくなれるかも知れない。

 あの一階のひとが三年生でなければ、だが。もし三年生で、優が入学したときには卒業していたとしたら、それは不運ということであきらめるしかない。

 よしっ! やるぞ!

 胸の底から熱く湧いてくる気もちに身を委ねて、優は明珠女学館第一高校の門へと力強く雪の上を歩いて行った。

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