変わり者な優等生

それからというもの、彼のからかいは少しだけ止んだ。しかし「少し」だけだった。

相変わらず毎日「ブス」のオンパレードで、私は本当に彼のことが嫌いだったので、容赦はせず、毎回怒鳴り散らして、徐々に関係を悪化させる方向へと進めていくことにしたのだった。

しかしそれからというものやけに好かれるようになり、私は本当に嫌だった。

「コイツ、死ねばいいのに。」と思う程嫌だった。

私は彼の恋心を利用していただけなので、実際に彼に好意は全く抱いていない。

抱いているのは不信感だけだった。

「信じなくてよかった。」という確信だけだ。

私は彼に借りを作らないようにしようと、彼が心配してきた時いつも「大丈夫」と言ってはぐらかし、会話が長く続かないように直ぐに切り上げる方向へと持ち上げたりしていた。

ありそうな「フリ」だけをして、彼の機嫌を取って、上手くやっていた。

こうして私は再び優等生に戻った。

テストでも当たり前のように百点を取る事ができるようになっていた。

しかし私の努力は多少なり評価されたものの、それほど評価されることはなかった。

小学五年生に上がる頃、クラスメイト達はやけに親切になり気持ち悪さを感じていた。

あのデブな女の子には「調子に乗るなデブ。」と言ってから大人しくなり私のいる側で、私の嫌味を言うことはなくなった。

一気に学力が上がったと、クラスでも話題になった。

ある意味計算していた部分は多少なりあるが。

小学三年生の時、私は自分がバカにしていた奴が、自分よりも能力高くなってしまったら奴らはどんな反応をするのだろうという検証に取り組んでいた。

小学五年生になった時、私はリコーダーが上手いということで、音楽クラブに入ることになった。

朝六時起きで、これが本当にキツかった。

担当していた楽器はトランペットだった。

何故放課後じゃなくて、朝にやるのか理解出来なかった。

その時撮った写真をまだとってある。

そして小学六年生になった時、私は始めて体育祭で一位を取った。

この時は凄く嬉しかった。

五十メートル走十秒台で、一位なんて取ったことなかった。

でも「できる」と信じればできることを知った私は、それから挑戦し続け、報われなくても、失敗をしても、何度もチャレンジし続けた。

小学六年生に上がる頃には、数々の賞状を受賞したのだった。

自分を信じるだけで、どんなことだってできる気がした。

そして育て親の言った「できない」は嘘になった。

私はできるようになってしまったのだ。

徐々に育て親もそんな私を認めてくれたのか、そろばんにも通わせてくれるようになった。

いつもは皆んなしていても私だけしちゃダメだと言われていた習い事も付けてもらえるようになった。

しかしその先生と相性は悪く、直ぐに辞めた。

そろばんはかなり長く続いて、中学を卒業するまではやっていた。

そしてそろばん検定八級を習得した。

自分を信じることで未来を変えることができることを知った。

私は自分らしく生きることを恐れなくなった。私は私、これが私なんだ。

性別など関係なく、嫌われることがあったとしても、私は自分らしさを貫いていきたいと思ったのだった。

しかし卒業が近くなった頃、私は特別支援級に行くように言われ、再び反対したら怒鳴り散らされた。

「あんたにはできないって言ってるでしょ!」と。

「普通級か特別支援級かどっちに行くか選びなさい。」と言ったのはあんたじゃん。

理不尽過ぎる。とも思った。

私はこの時、当たり前のように百点を取れるようになっていたので、つい記録を残しておくのを忘れるというミスを犯してしまった。

それ以降、勉強した時には必ず記録を残すようにしようと誓った。

感情的になっているのは自分の方なのに、私が怒ると「そうやって感情のコントロールできないでしょ。」と言われたのだった。

それ以来私は怒ることを辞めた。

何があっても怒らず、言い返すこともせずに、何を言われても、無言で無表情でいるようになった。

こうして私は滅多に怒らない人になった。

元々キレやすい性格だというのは自分でも分かっていた。

だからこそ私は人に期待をするのを辞めた。

期待をすると傷つくし、疲れるというのを知っていたからだ。

余計な感情を抱かなくなり、私は卒業する時、小、中、高、泣くことは無かった。

無駄な労力は使いたくないので、できるだけ人と関わることをせず、一人でいる時間の方が増えていった。

その寂しさや、怒りを埋める為か、衝動買いが酷くなり浪費癖が付いてしまった。

怒鳴り散らされ、あまりの怖さに私はイエスと言うしかなかった。

しかし音楽を学ぶことを諦めた訳では無い。

私はちゃんと考えていた。

音楽の教師になる以外にも他の方法はないかと音楽の本を読みながら学んでいた。

地獄の日々も過ぎさろうとしていた頃、その男子に告白をされた。

私はアプローチをアプローチだと思っておらずシカトをし続けたことで虐めになったことがトラウマになっていた。

そして私は彼のことは好きではないが、好きだということにしておけばもう虐められずに済むと考え「好き?」と聞かれた時、「好きだよ。」と真顔で適当に返事をした。

それ以降、彼が私を虐めてくることもなくなり、「ブス」と言ってくることもなくなった。そして控えめで、大人しくなった。

あの意地悪な彼はいなくなって、優しい人になった。

まるで悪魔に憑依され、解放されたかのように彼の本来の姿が垣間見れたような感じがした。

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