第5話 賢者の石と土の賢者
数週間後。
夕暮れ時の公園で、透真と美空が向かい合っていた。
「だいぶ戦闘にも慣れてきたわね」
「まだまだお前には勝てないけどな」
因みに二人が十本勝負をしたときの結果は透真と美空で二対八程度になることが多い。
それだけ二人の実力が離れているとも言える。
「そりゃそうよ。私は貴方とは住んでいた年代も環境も違ったのだから」
「そういえば、美空は未来と過去どっちから来たんだ?」
話の流れで、ふと疑問に思ったことを口にする。
「私が居たのは今から20年後の世界。その時点では日本は平和な国に戻ってたから、召喚された時驚いてたんだけど……」
「その割にはこの世界について詳しくないか?」
「学校の授業で習ったのよ。それだけ国にとっても重大な出来事だったのでしょうね」
美空は懐かしそうに語る。
「あと、この世界について詳しいのにはもう一つ理由があるんだけど、それについては私の能力が絡む話だから秘密ね」
「教えてくれたって良いだろ」
透真は少し唇を尖らせる。
「貴方は勇者だから教えられないわね。私の能力をコピーできるんだから、悪用でもされたら溜まったもんじゃないわ」
しかし、透真に教えるリスクを考慮し、美空は情報の開示を拒んだ。
すると突然、美空が何かを思い出したかのような表情で、手を叩いた。
「そうだ、貴方に見せたいものがあったのを忘れてたわ。着いて来て」
「見せたいもの?」
「詳しい話は後でするわ」
透真は不思議そうに首を傾げたが、美空が先に帰り始めてしまったため仕方なくついていくことにした。
数分後の美空の家で。
「お帰りなさい、マスター」
帰宅した透真達をリンが出迎えていた。
因みに透真とリンは手元に金がなかったため、一時的に美空の家に居候している。
「ただいま、リン」
「私には言ってくれないのかしら?少し悲しいわ」
「ふふ、すみません。お帰りなさい、美空さん」
「ええ、ただいま。それじゃあ透真、着いてきて」
「ああ」
挨拶を交わした後、美空と透真は美空の部屋へと歩んでいった。
「それで、見せたいものってなんだ?」
部屋の中に入った透真は、早速本題に入った。
「これよ」
そういった美空が持っていたものは、手のひらに収まるサイズの石だった。
色は赤みがかった茶のような色で、全体が半透明になっている。
「なんだこれ」
「これは賢者の石っていうんだけど、これには賢者の力を引き出す能力が備わっているのよ」
賢者の石とは、賢者が使用したとき、賢者の属性能力を大幅に強化することができる石のことだ。
「へえ。それで、どうしてこれを見せたかったの?」
「これを貴方に持っててほしくて」
「何で俺が?」
そんな貴重なものをと、そう言いたそうな表情で美空を見つめる透真。
「理由は明日にでもわかるわ」
「明日……ねえ」
透真は胡散臭さを感じたが、美空のことはある程度信頼しているからこれ以上追求することはしなかった。
「じゃあ話も済んだことだし、夕飯にしましょうか」
「そうだな」
それから透真達は夕食を済ませ一日を終えた。
次の日、透真と美空はある場所へ向かっていた。
到着した二人はそこに存在していた十八体の”何か”と相対している。
「到着ね。……けど」
「何だあの化け物?人間……では無いよな?」
”何か”は人の形を象っているが、その容姿は明らかに人間離れしていた。赤茶の土煙を纏っており、その顔を窺うことはできない。
「あれは多分賢臣だわ。賢臣は賢者が生み出すことのできる兵のようなものね」
「なるほど、あれはどれくらい強い?」
「一般人じゃ苦戦するだろうけど、私達の敵じゃないわ」
そう言いながら、美空は賢臣を三体消滅させた。
「確かに、そこまで強くないな」
透真も、魔剣を駆使して襲いかかってきた賢臣を五体吹き飛ばした。
吹き飛ばされた賢臣は体を維持することができなくなって霧散していく。
「後十体。俺が五体やるから、残り半分は任せたぞ」
「命令しないで!」
かくして二人は一気に駆け出し、五体ずつ賢臣を相手取った。
順調に相手を倒していき、それぞれの相手が後一体となった時、異変は起こった。
「何だ?」
二体の賢臣は変形し、それぞれが大きな拳へと成り代わった。
そして拳は、物凄い勢いで二人に迫ってきた。
「なっ!?」
剣で受け止めようとした透真だったが、力の差が大きく、後ろへ吹き飛ばされてしまった。
「透真!」
美空は拳を能力によって停止させると、透真の方へ駆け寄った。
「気をつけなさい。あれはまともに受けたら押し負けるわよ」
そういいながら再び飛来する拳を迎撃する美空。
透真も拳の破壊に着手しようとした。
その瞬間……
「っ!」
拳とはまた別の何かが二人の背後に接近した。
そのまま攻撃を仕掛けてきたそれに対して、透真は最速で迎撃した。
金属がぶつかるような甲高い音が響き、砂埃が舞った。
そして、砂埃が晴れるとそこには……
「今のを受け止められるなんて、君なかなか強いね」
透真よりも一回り小さい、年齢にして十歳程度の少年が立っていた。
「誰だ!」
「わざわざ答える義理は無いけど……。そうだね、これもなにかの縁だ。教えてあげよう」
透真の問いに、少年は一拍置いて答えた。
「名前は土屋章。みんなには土の賢者と呼ばれてる」
そして章は、再び透真に肉薄した。
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