第4話 魔力の弾と二人目の勇者

「うわあああああああああ!!!」

「落ち着いてくださいマスター!あの能力をよく観察してください!」

「無理に決まってんだろおおおおお!!!」

透真達は逃げていた。

相手は魔力弾のようなものを永続的に飛ばしてきているため、立ち止まることは許されない。

「仕方ない、俺が攻撃を止める。そのうちにお前は逃げろ!」

「了解マスター!」

透真はリンを逃がし、相手と向き合った。

「待て!俺たちはお前と争うつもりは無い!誤解なんだ!」

「何が誤解だって言うんだ!」

相手の男、透真達が泊まっていたホテルのオーナーは怒りながら魔力弾を飛ばし続ける。

「俺たちは何もしていないだろ!一体何が問題だっていうんだ!」

透真は自らの潔白を証明しようとした。

「何もしてない?馬鹿言うな!」

そう叫び、オーナーは続けた。

「宿泊代金半月分一切払わずに出ていっただろうが!!!」

「……何のことかわからないですね」

「嘘つけ!今の間は何だ!」

「わかりました、代金はきちんと支払いましょう。但し条件があります」

透真は先程までの態度とは一変して至って真面目な態度で交渉を持ちかけた。

「何だ」

「貴方の能力の能力名と効果を教えてください」

「何でそんなことを……、まあいい。この能力の名前は《魔弾》だ。魔力の弾を放出する。他の能力と併用すれば属性弾や変化弾なんかもできるだろう」

教えたのだから代金を払えと、オーナーは透真に迫った。

「オーナー、ありがとうございます……。それでは」

そして次の瞬間……

透真はその場から姿を消した。


場所は一転して近くの公園。

「大丈夫でしたか、マスター!」

そこには先に逃走していたリンの姿があった。

「無事にあの能力の概要を知ることができたよ。魔力消費と発動時間、効果時間は目視でわかったけど、名前と効果まではわからなかったからオーナーがバカで助かったな……」

透真は微苦笑して左手を見る。

そこには、先程までオーナーが使用していたような魔力の弾が生成されていた。

「無事なら何よりです。ですが、泊まるところがなくなってしまいましたね……。オーナーは顔が広いので、他所のホテルにも連絡が入っているかもしれませんし」

「じゃあしばらくは野宿になるな」

「嫌ですよそんなの。どうにかしてくださいよマスター」

実に不服そうに、透真に懇願するリン。

「無理だ。諦めろ」

そんなリンに対して、透真は無慈悲に事実を突きつけた。

その瞬間の出来事だった。

「っ!?リン、伏せろ!!!」

「えっ!?」

透真は咄嗟にリンに覆いかぶさり、飛来する”何か”を躱した。

しかし……

「クソッ……」

透真の左腕が消滅していた。

身体強化のお陰で痛みや甚大な出血は抑えているが、解除した瞬間にとんでもない激痛が襲ってくるだろう。

「今の殺すつもりで撃ったんだけど、躱せるなんてすごいわね。やっぱり君が勇者だからなのかしら?」

攻撃の主は透真に近づき、二人に話しかける。

「何故それを……お前は何者だ」

「私は玄神美空。君と同じ勇者よ」

衝撃の告白に二人は瞠目する。

「二人目の勇者ってわけか……」

「そういうこと。でもあんまり長話をするのも良くないだろうし、話はこれでおしまい。ここからは正々堂々勝負よ」

「何が正々堂々だ」

先程の一撃で、透真は実力の差を理解していた。どう足掻いても勝てないということも。

だからこそ、透真は自身とリンに《透化》を使用し、逃走を図ろうとした。

しかし……

「やっぱりそうくるのね。だったら悪いけど、少し君には眠っててもらうわよ?」

直後、腹部に鈍い痛みが走り、透真は意識を失った。


ここはどこだろうか。

懐かしい光景……そうだ、ここは学校。

俺が元々通っていた小学校だ。

思い出なんて、誰かに陰口を言われたことか、ストレスのはけ口にされていたことしかない。

学校に行くことは俺にとって死ぬことよりも辛かった。

いっそのこと自殺してやろうかとも考えた。

だけど、俺は思い留まれた。

何故か。それは家族の存在があったから。

家族は俺が喜んでいるときは一緒に喜んでくれた。

俺が苦しんでいる時はいつでもそばに居て寄り添ってくれた。

中学入学後に両親は共に死んでしまったが、中学には小学校時代の知り合いが居なかったから平凡な日常を送ることができていた。

両親の死後、俺は自殺しようなんて考えることはなくなっていた。

むしろ両親の分まで生きてやろうと、小学校時代のクラスメイトよりも長く生きてやろうと、そう思えるようになっていた。

場面が変わった。

ここはどこだろう。

俺が住んでいた家の近くにあった横断歩道だ。

ここは交通量が多いが、信号機がちゃんと付いていたため事故はそこまで多くなかった。

ある日、俺が信号機が青に変わるのを待っている時、一人の少女が走っている車に突っ込もうとしていた。

その時の俺は普段の自分であったなら選ぶことができなかったであろう選択をとった。

少女の腕を掴み、そのまま歩道の方まで引き付けた。

少女は酷く悲しんだが、俺も

自殺しようとしたけど思い留まれたという話をすると、泣きそうな顔で謝ってきた。

そしてその後、とても深い感謝をされた。

家族以外の誰かに感謝されたのなんて片手で数えられるほどしかなかった俺は、その少女に感謝を返した。

その日以降、俺はその少女と仲良くなった。よく話をするようになった。

その少女の名前は、望月燐。

彼女は、俺の人生最愛の人物だった。


「ここは……」

見知らぬ部屋で、透真は目を覚ました。

「マスター!!!」

リンは体を起こそうとした透真に勢いよく抱き着き、透真を倒れた状態に戻した。

「起きてすぐにそれとは……二人共熱いわねぇ」

透真は聞き慣れない声に警戒心を強める。

「お前は……」

「そんなに敵意剥き出しで睨まないで頂戴。せっかく貴方の体も直してあげたというのに」

そう言われ、透真はふと先程失ったはずの左手を見る。

そこには、完全に元に戻った状態の左手が存在していた。

「何で……」

「そんなの、能力を使ったからに決まってるでしょ」

「違う。何で敵である俺の腕をもとに戻した?」

透真が話の食い違いを訂正し、話を促す。

「そんなの、別に貴方のことを敵だと思っていないからよ。透真、っていったかしら?貴方は勘違いしているかもしれないけど、私はあくまでも勇者である貴方の力を借りたいから協力してもらおうと思っただけよ」

「俺の力を?」

想定していない話が出たからか、透真は首を傾げる。

「私の目的は賢者全員の抹殺。それに協力してほしいのよ」

「賢者?」

「貴方にはまだ説明していなかったわね。賢者っていうのは旧世界の中で魔力の量や質が高い人の中から選ばれる属性特化の最強って思ってもらえば良いわ」

「属性特化ってどういうことだ?勇者とは違うのか?」

わからないことが増えたことで、透真は口早に説明を要求する。

「せっかちね、まあいいけど。勇者が全員共通の能力を持っているのに対して、賢者っていうのは一つの属性に特化した能力をそれぞれが別々に保持しているのよ。例えば、炎の能力に特化した炎の賢者がいたり、氷の能力に特化した氷の賢者が居たりするわ」

「全員って言ってたけど、人数は?」

「全員で六人。炎、水、雷、氷、風、土の賢者が居るわ」

「……わかった、協力しよう。但し、こちらにも協力してほしいことがある」

抵抗しようとしても勝てないことが目に見えているから、透真は断るという選択肢を選べなかった。それは美空も十分理解しているのだろうが、

「何かしら?私にできることなら何でもするわ」

その上で透真達にも力を貸そうとしている。これはきっと彼女なりの優しさなのだろう。

「世界をもとに戻したい」

「そのために新世界王を殺したいと……わかったわ。協力する」

「良いのか?」

二つ返事で了承した美空を不安視してか、そんな疑問を投げかける。

「良いわよ。元々協力してもらうことへのお礼なんだし、それくらいはしなくちゃ」

「ありがとう。それじゃあ、これから宜しく。美空」

「ええ、宜しく。透真」

かくして、勇者二人の同盟は築かれたのだった。

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