第3話 天候操作と初戦闘

「意外とあっけなかったな」

「そうですね」

魔剣を入手した二人は帰路で、話をしていた。

「もっと苦労するかと思ったんだけどな」

「楽に手に入れられるに越したことはないですよ。……それよりマスター?」

「どうした?」

リンは困り顔で問いかける。その理由は……

「何か風強すぎないですか?」

そう、風が強すぎるのだ。

今は真夏だというのに、屋外はまるで真冬かのような寒さになっていた。

「さっさとホテルに戻るか。ここに居たら凍え死んじゃいそうだ」

「そうですね」

そう言って二人は身体強化をしてすぐにホテルに戻ろうとした。

しかし……

「……リン」

ふと透真がリンの名前を呼んだ。

「どうしました?」

「風に魔力が込められてる」

「魔力が風に乗って飛んできただけじゃないんですか?」

「いや違うな。さっき富士山に居たときは風に乗った魔力が空気中にまばらに見えたんだ。だけど今は動いている空気自体がでかい魔力の塊みたいに見える」

勇者の能力には他者の魔力総量を知ることができるというものがある。この能力にはものに込められた魔力を可視化するということが含まれており、透真が今識別できたのはこの能力によるものだった。

「そうなると何者かがこの事象を引き起こしている可能性がありますね」

「ああ。だから提案なんだが、その発動主を探してみないか?」

「どうしてですか?」

正直暴風の元凶を見つけたところで透真達にメリットはない。

だからそこを疑問に思ったのだろう。

「見つけたらそいつを捕まえたい。そいつが戦い慣れているタイプなら戦闘経験を積めるし、そうでなくとも何かしらの情報を引き出せるかもしれない」

「……確かに魔剣の力がどれほどなのかを試すのにちょうどいいかもしれませんね」

釈然としていないような表情を浮かべたリンだったが、メリットを見出だせたからかすこし笑みを浮かべて同意した。

……その瞬間だった。

「そこの若い男と女。止まれ!」

透真達の前に一人の男が立ちはだかった。

「誰だ」

「そんなことはどうだって良い。その剣を渡してもらおうか」

「誰が渡すか。俺はお前は誰かと聞いているんだ」

「それは聖剣か魔剣といったところだろう。今渡してくれるのであれば穏便に済まそう」

呆れ気味に問いただす透真。

しかし男は答えようとはせず、勝手に話を進めようとする。

「もういい。帰ろう、リン」

うんざりした透真は無視して帰ろうとする。

だが……

「ほう、リンというのか。……良いだろう、リンもついでに貰うとしようか。渡すのが遅かった罰だよ」

男は愉快そうに笑みを浮かべて言う。

「渡さないと言ってるだろ。いい加減にしろ」

透真は男を睨みながらそう言った。

「だったら力尽くで奪わせてもらおう」

男が言い放った瞬間、辺りに突然雷が落ちてきた。

「きゃっ!」

「大丈夫か、リン」

「はい、大丈夫です」

「じゃあお前は下がってろ。俺が戦う」

「……了解です、マスター!」

リンは不安げな表情を浮かべたが、力強く頷いた。

「女を守ろうとするその心意気は尊敬に値する。だが、勝てない相手に勝負を挑もうとするのは蛮勇というものだぞ?」

男はそう言い、透真に向かって突っ込んできた。

しかし……

「何っ!?」

その瞬間、透真の姿が消滅した。

男が辺りを見回すが、透真の姿はどこにも見当たらない。

「透明化する能力か……。だったらこれはどうだ!」

次の瞬間、辺りに大雨が降り出した。

すると、雨が透真の体に当たって弾けてしまう。

「そこだ!」

男はどこからか短剣を取り出し、透真に斬り掛かった。

(さっきの雷といい、天気を操る能力なのか?)

そう考えながら、透真は《透化》を解除しつつ剣の能力で自身の周囲に風の結界を生み出した。

「無駄だ!」

しかし、突如辺りで風が吹き荒れ、風の結界は吹き飛んでしまう。

その影響で雨雲は吹き飛ばされ、透真と男は再び睨み合うこととなった。

「貴様の能力は透明化と風操作とみた。私のほうが圧倒的に有利だ。もう諦めたまえ」

男は上機嫌そうに高笑いをする。

「確かに能力だけじゃお前が有利だ。だが……」

「がはっ……」

「お前じゃ俺には勝てない」

その声は、背部に蹴りを喰らった男の背後から聞こえてきた。


戦闘を終えた透真達は、ホテルに戻って話を再開していた。

「最後の高速移動みたいなやつってどうやってやったんですか?」

「あれは身体強化と魔剣の風で体を飛ばすのを同時にしたんだ。移動中に《透化》をつかって姿を隠すことで、相手からはテレポートしたように見える」

「なるほど」

自慢気に語っているが、実際はただの突発的な思いつきだ。成功するかは怪しかった。

「そういえば、あの人置いてきて良かったんですか?」

「良いんだよ別に。知り合いでもないんだし」

「そういうものなのでしょうか……」

戦闘後、透真達は気絶した男を放置して帰ってきていた。

リンはあの男が赤の他人とはいえ、罪悪感が湧いたのだろう。

「そうだ。次の目標はどうするんだ?剣は入手したわけだが」

「あれでもまあまあ強かったと思いますが、それでも今の実力では敵わないでしょうね」

「だろうな」

想定していたとでも言わんばかりに、透真は苦笑した。

「なので戦力を増強する必要があると思うんですよ」

「だったらどうする。仲間でも増やすか?」

「その通りです」

そう言ったリンは少し間をおいて、続けた。

「残り二人の勇者を探して仲間にします!」


透真達が男を倒した数時間後。

「動き出したみたいね」

女は近くのホテルを見上げ、そう呟いた。

「この世界に来てから数日近く立ったけど、まさか私と同じ境遇の人を見つけられるなんてね」

そう言いながら、具現化した杖を手に取りながらホテルを背に歩いていく。

「それじゃあ私も自分の目標に向けて動き出しましょうか」

その女、玄神美空はホテルを一度振り返ると、微かに笑みを浮かべた。

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