第2話 新世界王と翼の魔剣
「成り行きで話を進めてたけど、新世界王とやらはどれくらい強いの?」
出会いから半日ほどが経過した頃、近くにあったホテルで透真が尋ねた。
因みにどちらかの家へ向かわなかった理由は、透真の家は世界の融合によって消滅しており、リンの家は現在地からかなり離れてしまっているからだ。
「素手の殴り合いだったらまず勝てませんね。武器を使えば勝てるかもしれませんが、実力が余程拮抗してない限りは不可能に等しいかと」
リンは思案し、そう答える。
「武器なんてそう簡単に入手できるの?」
「言っていませんでしたが世界の融合によって能力が覚醒したのは日本人だけなんですよ。それで、政府は能力を他国の支配のために使用しようと考えついたらしいです。なので、能力や魔力を操った戦闘法も最近は義務教育に含まれているらしいですね」
「なんとも物騒な話だな」
「これだけではありません。国は次第に魔力伝導性の高く大量生産が容易なものに限り、武具の製造、販売を認め始めました。それに伴って、国の治安は悪化して、殺傷事件が増えたりもしました」
少し悲しそうにリンは情報を開示した。
「つまり武器は簡単に手に入ると」
「ええ。ですが、市販の武器では新世界王の足元にも及ばないでしょう。」
「じゃあどうするんだ?」
透真が不安げに問うと、リンは笑みを浮かべて言った。
「旧世界の武器を手に入れます!」
数時間後、二人は目的地に到達していた。
「ここは……富士山?」
そう。静岡と山梨に存在している日本最高の山だ。
現在では融合による地殻変動の影響でかなり歪な形になっており、通常であれば登ることは不可能だろう。
「この山の頂上へ向かいます。とはいえこのままじゃ登れないので、身体強化のやり方を教えますね」
「身体強化は能力とはまた別物なの?」
「はい、身体強化は魔力を強化したい部位に流し込むことによって筋力や体力、五感などを強化するもので、能力とは異なり誰でも使うことができるものです」
説明を終えたリンは全身へ魔力を行き渡らせ、自身の身体能力を強化した。
「さあ、マスターもやってみてください。魔力の伝達は念じればできますので」
「雑だな」
透真は苦笑しながら念じてみる。
すると……
「おお……!?」
全身から魔力が溢れてきた。
「体が軽いぞ!すごいなこれ」
「小学生じゃないんですからそんなにはしゃがないでくださいよ。」
「ああ、すまんな。それじゃあ早速行こうか」
「はい、マスター!」
かくして二人は富士山を駆け上がっていくのだった。
富士山を登り始めて数時間後、山頂で。
「着きましたね……」
「ここが……頂上……」
二人は息を切らしながら辺りを見渡した。しかし周囲には何もない。
「場所はここで合ってるの?何もないみたいだけど……」
「はい、場所はここで合ってますよ。ただ、ここからは地面を掘って進みます」
「もしかして武器ってここの真下だったりする?」
嫌な予感がしたからか、透真が恐る恐る尋ねる。
「はい、そのまさかです」
そしてリンは、屈託のない笑みを浮かべてそう答えた。
更に数時間が経過したとき、二人はとうとう最深部の遺跡らしき場所へと辿り着いた。
「やっと着きましたね……」
「長かったな……」
遺跡の入口で言葉を交わした二人は、そのまま奥へと続く道を進んでいった。
「ここに旧世界有数の武器、『双翼の聖剣』が眠っています」
「双翼の聖剣?」
「剣自体は西洋の剣に近いもので、鍔の部分に翼が象られているのが特徴ですね。因みに聖剣というのは、旧世界において神、もしくはそれに限りなく近い存在によって生み出されたとされているもののことです。聖剣が本来の力を失ってしまったものは魔剣と呼ばれて、魔力伝達性は聖剣よりも高くなりますが、剣に本来込められていた能力が部分的、または完全に使用できなくなります」
「へえ……。それで、その双翼の聖剣にはどんな能力があるの?」
「風を操る能力と剣の使用者にかなり高位の身体能力強化を施す能力があります。これだけで新世界王に勝てるかはわからないですが、聖剣自体かなり強力なものなので持っておくに越したことはありません」
「ああ、そうだな。新世界王が聖剣を回収するかもしれないし、それだけの剣なんだったら使いこなすのに練習も必要だろうしね」
不安をなくすために手に入れるのも良いだろうと、透真がそんなことを考えていると……
「これが『双翼の聖剣』か……」
「はい。しかし劣化が酷いですね……。既に聖剣としての力も減衰してるっぽいですし」
リンの言葉通り、剣はかなり劣化していた。
刃に欠けている部分が所々ある他、鍔の翼も片方が欠けてなくなってしまっている。
「じゃあこれはもう魔剣になるわけか。翼も片方無くなってるみたいだし、これじゃあまるで『片翼の魔剣』だな」
透真が冗談交じりにそう言った、その瞬間……
「!?」
突如、剣が光を纏った。
その光は刀身へと収束していき、光がなくなった時、二人は思わず目を見張った。
「なんで……」
剣の刃毀れが完全になくなっていた。
それだけじゃない。元々翼があったであろう場所が綺麗に削り取られていた。
「言い伝えとして聞いたことがあります。剣に気に入られるような名前をつけると、剣がその人を主として認めると……」
「てことは……」
「恐らく、この剣はマスターのことを認めたんじゃないかと」
「じ、じゃあミッションはクリアだな。無事に剣を入手できた」
透真は焦りながらも、努めて冷静に話を進めた。
そして……
「それじゃあ……戻りましょうか」
「……そうだな」
二人は少し気まずそうにに山を降りていくのであった。
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