融合世界と二つの能力
Ria
第1話 別世界と勇者
男は中学生だった。
至って平凡に生活していた。
だが、ある日突然視界が歪んだ。
意識を失い、次に目が覚めた場所は……
見知らぬ土地だった。
これは最近の創作物でよくある異世界転移というやつなのだろうか。
そう考えたが、周囲の建物は前に住んでいた日本と大差なかった。
使用されている言語も日本語のまま。
よって、ここが異世界である可能性は低いだろう。
だが、それだと今の状況に説明がつかない。
何かおかしな夢でも見ているのかもしれない。
それが一番考えられる現状だろうが、夢にしては現実味がありすぎる。
(考えるのはやめだ。それよりも……)
いくら考えても答えはわからないと悟った男は、現状よりも未来のことについて考えることにした。
暫くして、男に近づく一人の少女が居た。
「すみません……」
「君は何者だ?」
男は一度思考を中断し、少女の呼びかけに応じる。
「この世界には慣れましたか?」
いきなり意味不明なことを言われたことで、男は少女を訝しんだ。
「…どういうこと?」
「言葉のままの意味です。この世界にはもう慣れたのかと、私はそう聞きました」
「その意味を聞いているんだ。何なんだ”この世界”って」
「薄々勘付いているんじゃないんですか?この世界が貴方の元々居た世界とは異なる世界だと」
「じゃあやっぱり……」
やはり、異世界に転移でもしたのかと男は問おうとしたが……
「異世界転移のようなものでもしたのかと、そう問うつもりならそれは間違いです。
この世界は貴方が元々居た世界と違う世界であると言いましたが、それは部分的な
話。この世界のベースは元の世界と同じなんですよ」
まるで男の質問を予見していたかのような返答を被せた。
「どういうことかまるで分からない。もう少し詳しく話してくれ。というかそもそも君は何者なんだ」
「そういえば自己紹介がまだでしたね。少し場所を移しましょうか」
少女はそう言い、男を連れて近くの喫茶店へと足を踏み入れた。
「それじゃあ自己紹介をしようか。」
二人はテーブル席に向かい合い、話を再開した。
「俺は霧風透真。元の世界では中学生だった。」
透真は余計な情報を与えない、至極簡潔な自己紹介をした。
「それじゃあ私の番ですね。私の名前はリンと言います。
貴方の従順な下僕であり、貴方をこの世界へ呼び出した張本人です」
「っ……⁉」
あまりに衝撃的な告白だったからか、透真は強く瞠目する。
「この世界へは、私の”能力”によって召喚しました。」
「能力?」
「はい、能力です。これはきっと貴方も持っているはずですよ」
「俺も……?どうやったら使えるんだ?」
まだ中学生だからこその好奇心からか、心底興味深そうに尋ねた。
「能力を使いたいと念じれば使えますよ。ただし、能力は自分自身に設定されているものしか使用できないので、他人の能力を貴方が使用することはできません」
「つまり、お前が俺をこの世界に召喚した能力は俺には使えないと……」
「はい……まあ、私の場合は少し特殊ですがね」
リンは苦笑しながらそう答える。
「へぇ……」
透真はそう返答すると、ムムッと顔を強張らせた。
すると……
「おおっ……!」
透真の体が徐々に透け始めた。
「それが貴方の能力ですね。能力の概要は同じように念じれば知ることができますよ」
「なるほど……」
透真が再び念じると、頭の中に能力に関するデータが流れてきた。
《透化》
魔力使用量 発動時間 効果時間
毎秒1魔力消費 0,5秒 無制限
・対象が他者から視認、もしくは接触、あるいはその両方をされなくなる
「ふむ……」
能力の概要を知った透真は、興味深そうに唸った。
「貴方の能力はどんなものでしたか?」
「透明になる能力だったよ、俺の名前にはぴったりだ。だけど、魔力って一体何?」
「魔力は能力の発動に必要なエネルギーのことです。RPGゲームのマジックポイントと同じようなものだと思っていただければ」
「なるほど……」
「そういえば、人によっては能力が二つある人もいるのですが……貴方はどうでしたか?」
そう問われた透真はもう一度念じてみたが、体が透けるだけで他に何かが変化した様子はなかった。
「無いっぽいな。まあ、一つあるだけでも十分か」
透真は少し不服そうに呟いた。
「話が少し逸れたな。続きを話してくれ」
「はい。私の能力は色々と複雑なので詳細は省きますが、能力を使用して貴方を含め3人を”勇者”としてこの世界に召喚しました」
「勇者になったらなにか特別なことでもあるのか?」
また新たな単語が出てきたことで、更に質問は続く。
「勇者には通常の人間とは違い、勇者固有の能力というものが2つあります。」
勇者固有の能力
1つ目は他者の魔力総量を知ることができること。
相手の魔力総量を把握することによって、その人物がどれだけ能力に慣れているのかを間接的に知ることができる。
2つ目は名前と効果、特性を詳細に把握している他人の能力を模倣することができること。
正直、1つ目の能力がおまけに思えるほど2つ目の能力は重要だ。
相手の能力名、その能力の魔力使用量、発動時間、効果時間、能力の使用による効果…要は念じることによって知ることができる能力の概要を全て把握していればその能力を使用できるということだ。但し、その能力はあくまで他人のものを模倣したに過ぎないので、本元の能力が劣化したものしか使用することができない。
《透化》を例に挙げると、元の能力は他者に視認、接触されなくなるというものだが、それらが中途半端に発動して微妙に透けて見えたりすることがあるということだ。
「つまり、勇者は一般人よりも少し強い存在なのです」
「なるほど……」
一通りの説明を受けた透真は、感嘆の声を上げた。
「それじゃあ次に、この世界についての説明を始めます」
「宜しく頼むよ」
「この世界は、貴方が元々居た世界と平行世界だった能力のある世界が新世界王の能力によって融合された世界であり、貴方が居た世界の10年後の日本でもあります」
「融合された世界であり…10年後?」
「はい、私は他の時間軸の人間を勇者として召喚しました」
「ふうむ……そういえば、なんで勇者を召喚したの?」
「そこが一番重要な話になります。私は元々融合された世界を元に戻そうとしました。だけど、私の力だけでは圧倒的力不足だった。だからこそ、勇者を召喚して味方につけようとしたわけです」
他者の能力に干渉することは、まず不可能とされている。
実力が余程離れているか、同じ能力を使用してでも居ない限りは、能力への干渉はできないだろう。そのことに透真は心の内で薄々気付いていたのかもしれない。
「俺が味方につくとして、どうやって世界を元に戻す?」
「それは……」
倒すしか無い。聞こえは良いかもしれないが、本質は新世界王の殺害と同義だ。
「わかってる。殺すんだろ、その新世界王を。俺は頭は良くないけど、察しは良いんだ」
リンは自分より先に言われたことに少し唖然としていたが、あまり間を開けずに、透真が続けた。
「俺は手伝うよ。元の世界に戻りたいっていうのもあるけど、何より困っている人を見過ごすことはできない」
「っ……!あ、ありがとうございます!」
泣きそうな表情になりながら、リンは感謝の意を示した。
「それじゃあ、これから宜しく。リン」
「はい!宜しくお願いします、マスター!」
「マスター?」
聞き慣れない呼び名で呼ばれたことで、透真は首を傾げた。
「最初に言ったじゃないですか、私は貴方の下僕だって。だから、マスターです!」
「……そっか」
今日の中で一番困った表情を浮かべた透真と対象的に今日一番の笑顔を浮かべたリンの旅は今この瞬間に幕を開けた。
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