第112話 新式の強み
二年生の二学期がやってきた。
陽気はすっかり冬。
寒さが厳しい。
とりあえず、学園については、今まで通りに出席するべき授業は出席して、学ぶことを学ぶ。
秘密結社の運営がメインで、事業もしっかりやる。
いつも通りだ、変わらない。
「……で、この軍事演習ってのは?」
俺は、受け取った羊皮紙をぴらぴら〜っと揺らす。
「坊や、そりゃあ、あんたの身から出た錆さね」
そう言って、キセルを咥えるババア。
学園長の、アンジェリーヌ・フォン・アクアロンドである。
「身から出た錆、ねえ……?」
「おや、不服かい?だがね、分かっていたことだろう?そこについて文句を言うのは、筋が通らないよ」
……まあ、確かに。
羊皮紙の内容は、王家からの命令書。
内容は要約すると、「新式魔法についての説明と、新式魔法のアピールポイントを教えろ」とか、「新式魔法の戦場での運用法を考えろ」とか、そう言う話だ。
従う義理はない。ないのだが……。
「それはもう……、坊やが国を嫌っていようと、国が坊やを嫌っていようと、ここまでの成果を挙げられては、国としては話を聞かざるを得ないだろう?仕方のないことさね」
そう、そういうことである。
「新式魔法」……、俺が作った、新たなる世界法則。
「M言語」の、その扱いについてである。
国内の魔導師がたくさん集まるこの魔法学園で、実にもう八割の生徒が俺の新式魔法を使っている。
当たり前だ。もう既に、パラダイムシフトは済んでいるのだから。
旧式のエレメント魔法論による詠唱式と、新式魔法のM言語とでは、全ての要素が段違い。
詠唱も不要、作った術式は自由に保存でき、いつでも任意で使用可能。制御も事前に術式に書き込める。
セーフティもよくできていて、従来式のエレメント?四大元素魔法?では、下手な制御……まあ、意図しないループ処理なんかをすると、そのまま魔力切れで死ぬまで延々と魔法が発動し続ける!みたいな、アホくさい欠陥があるのだが……。
この、新式魔法では、意図しないループ処理が入ると、エラーを吐いて術式が停止するのだ。
……ああ、今思うと、「魔法の術式は神聖なものだから弄るな!」ってのは、下手に弄るとループやら意図せぬエラーやらで魔導師が死ぬからか?
まあそれはどうでもいいとして……、とにかく、新式は出来がいい。
制御が安全、そして楽で、できることはリスト化してまとめてあり、ヘルプも出せる。
また、他の術式……例えば、物質創造術などの他システムなんかも埋め込みできる。
対抗呪文……、任意ではなく、他の呪文や物理現象に応じて発動するという、全く新しい形式も魅力的だな。
もう一つ付け加えると、ユーザーが作った術式はこちらのメイン記憶領域に保存されて、惑星を破壊するような洒落にならない威力の術式は発動しないようになっている。「一億兆万℃の炎!」とかバカがやり出したら困るので……。
まあ何だ、要するに、長槍と盾の時代から、マスケット銃の時代になったようなものだな。
最早、俺のことが好きか嫌いか?とかそう言う領域の話ではなく、新式魔法を手にしていないものは凋落が約束されているようなものになってしまっている……。
だから、国としては、極力関わりたくない不穏分子である俺に、わざわざ頭を下げてまで新式魔法について教えてくれと言っているのだろう。
そもそも、この国の一番の売りは、他国の倍はいる魔導師達の数と質。
よって国は、魔導師を強化する術があるなら飛びつくし……、俺は亜人のような下賎な存在にもこの新式魔法を惜しみなく教えているから、それを見て、「他国に逃げ込まれたら終わるナリ」と思ったってのもあるはずだ。
それに、さっきも言ったが、これはパラダイムシフトだ。
新式魔法を習得した俺の手下共や同盟になることを誓った若い魔導師達に、最前線で戦ってきたベテラン魔導師が、敵わない。鎧袖一触、一瞬で蹴散らされる。
そんなことになれば、最早、国家としての体制が保てない。
そもそもこの国は、王家すらもが魔導師を輩出している……というか、王ですら魔導師でなければいけないとされている、魔法の国だ。
魔法の強さこそが権力となるような国で、若造ばかりが強くなり、ベテラン魔導師の現役貴族を蹴散らしてしまっては、権力構造が崩壊する……。
無論、その辺りは最初、なあなあで、なんとなくでふわっと、誤魔化そうとしていた。「若者が強くなることはいいことじゃないかハハハ」みたいな感じで。
……だが、俺が鍛えた若者達が、一年生三学期後に帰郷し地元に帰ったら、もう、ダメだった。
地元で無双する、若造達。
末の息子、末の娘が、嫡子たる長男を秒でボコり、それどころか当主である魔導師貴族をも秒殺する……。
流石にもう、メンツがどうこうと言っていられるラインは過ぎた。
各地の貴族は、新式魔法を公開しろと王家に泣きつき……、今に至る、と。
とにかく、新式魔法を公式にお披露目するのは、最早既定路線になっていた。
貴族なら誰だって、我が子に暴力で負けている現状は耐えられないだろうからな。
無能で蒙昧で、俺のことが嫌いだったとしても……、自分達の権力の根源である武力が、若造達に負けているとあれば、流石に動くか。
で、仮にここで断っても、無限に催促が続くことは想像に難くない。当たり前だ、新式魔法を手に入れないと、国家の基盤が揺らぐレベルのところまで話は進んでるんだから。
その度に断ることも可能ではあるが……、今は忙しい。
自国の滅亡はちょっと、仕事が増えて嫌だ。
卒業するまでは、自国の滅亡はナシだな。
よし、じゃあ、この国の上層部への煽りの意を込めて、卑しい半獣のアランとベティに担当してもらおうか。
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