第111話 メディアミックスへの第一歩

まあ、パーティーの話は良いだろう。


普通に出席して、シンパの貴族達と友好関係を深めただけだ。


強いて言えば、俺が去年にやった立食形式のビュッフェスタイルがパクられていたことだろうか?


確かに、食事がメインではないパーティーで、大皿がずらりと並び席に座って飲食するのは、色々とやりにくい。


王家の力を示す為にと、たくさんの料理がずらりと並ぶのは壮観ではあるのだが、最後の方なんて冷めて食えたもんじゃなくなっているし……。


第一、席順によって交流が制限されるしで、交流会の意味がないもんな。


パクれるところは普通にパクってくるのか……などと感心していたのだが、なんか話を聞くと、この形式のパーティーを初めて公式でやったのはカーレンハイト辺境伯だから、考案者はカーレンハイト辺境伯ということにされていた。


国は、俺に可能な限り功績を与えないつもりらしい。


別に、爵位をお断りするくらいにはこの国が嫌いなので、それについて何とも思わないが……、嫌いな奴や都合の悪い奴の功績を消し始めるようでは、マジでもうその組織は終わってるなー、って感じ。


前も言ったが、組織を維持するコツは、大好きな部下でもミスれば罰を与えて、嫌いな部下でも結果を出せば褒美を惜しみなく渡すことだ。


好きだから、みたいな理由で身内をグングン贔屓しているようじゃ、築けても山賊団が関の山。大組織を作るには、綺麗事や情だけじゃやっていけん。


そして、「情」で信賞必罰を徹底できなくなっているこの国は、もう腐っていて、終わるのもそう遠い話じゃないってことだな。




さて、それで、仕事の方。


休暇を利用して、新作ゲームのリリースを行う。


「さあ、最後の追い上げだ!オンラインでパッチ当てられるようなゲームじゃないからな、バグを逃したら製品回収騒ぎだぞ!」


「「「「はいっ!」」」」


本当にな。


回収騒ぎは会社の名誉にも関わるから、絶対に起きないようにしたい。


最終幻想8……?うっ、頭が……。


……これから冬、寒くて人々は家に籠るだろう。


そんな時に、退屈を紛らわせてくれるゲームがあれば、とても助かるはず……。


リリースしたのは、五タイトル。


『クロストリガー』『レイヴアレイヴ』『ロマンシングカガ』『タクティクスオーガ』『魔王城ドラキュリア』……。


どれも、地球の名作ゲームをオマージュしたものだ。


ストーリーは俺が適当に考えたオリジナルだが、正直、「物語慣れ」していないこの世界の人間にはこれで十分。


ああ、「物語慣れ」ってのは……、この世界の人間の殆どは、漫画もアニメもゲームも今までなかったから、テンプレ作品でも楽しめるって意味だな。


例えば、今の現代人、日本人が、ドラグーンクエスト1をやったとする。


そうしたら思うはずだ。「捻りがないな」とか、「テンプレだな」とか、と。


だが、このゲーム、ファミリーコンピュータでリリースされた当時は本当に凄かったんだぞ?


ゲームを買う為に子供達がお店にずらりと並び、裏ワザ!とか言って関連雑誌が出て、夜通しこの「捻りがなくてつまらないゲーム」を、当時の人々は楽しんでいたんだ……。


それと一緒。


今までは、物語というと、村に伝わるわらべ歌みたいなのか、古い神話みたいなものしかなく……。


遊ぶと言えば、木の棒を振り回して「騎士ごっこ」や、「おままごと」くらいしかない。


そんな世界に、ドット絵の古風なテンプレRPGは、マジで劇物だ。


今日もまた、支配下の商会の前に、バカみたいな数の人が並んでいる……。


俺のことを批判する貴族連中も、外国の貴人も、遠くから来た商人も。


本当にたくさんが、この国の王都に押しかけて、新作ゲームを買って行った……。


それだけではない。


俺は更に、新たなコンテンツとして、旧作ゲームの「攻略本」を売り捌いた。


攻略本は、ゲームのデバッグ担当の子供達に攻略記事を書かせたものを使っており……。


その記事を、グレイスが添削して、製本化した。


エイダが描いた美麗イラスト……今我が社で作っているのはドット絵のゲームだから、綺麗なイラスト集としての価値もある。


アイテムの性能名前、そしてエイダ作の綺麗な挿絵。


アランとベティは、攻略本の巻末にある短編漫画の原作を担当させた。


これは、メディアミックス計画の先駆けだ。


今まで出してきたゲームは、まだまだ後続のナンバリングタイトルを出せるポテンシャルがある。


故に、キャラクターへの愛着を持ってもらう為に、メディアミックス展開をして、漫画や映像作品、グッズなどを作っていきたい。


カーペンター子爵は、このゲームキャラ達を使っての演劇やゲーム音楽の演奏会などを通して、グッズを販売して儲けたいらしいから、手伝わせる予定だ。前も言ったな。


その先駆けとして、まずは、攻略本を出して反応を見る。


さあ、どうなるか……。




結果:バカ売れ


当たり前だよなあ?


何度も言うが、この世界は娯楽に乏しい。


イラストだってそうだ。


絵描きというのは、金持ちが自分の自画像を描かせる為に飼っている高級な食客みたいなもの。


絵の具も筆も高価で、練習には長い長い時間がかかる。


音楽も同じ。


庶民が気安く、見たり聞いたりできるものではない。


それを、ゲームは、攻略本は可能にした。


いやあ、とんでもない売れ具合だ。


発売から一ヶ月が過ぎた今でも、王都にはとんでもない量の人が溢れている。


警備のために、都市の衛兵や自警団だけでなく、騎士団までもが動員され、連日の大騒ぎ。


フィギュアとかも行けるか?いや、関節可動タイプの……それをやるなら最初から人形として……。


ファンイベントなんてのもありだな。


読者投稿アリの雑誌……、アニメ化、まだ出していない他ジャンルのゲーム……。


やることも、やれることも、いくらでもある。


ああ、仕事が忙しい……。

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