第110話 二年目のパーティー

さて、今年も一学期が終わり、長期休暇がやってきた。


となると、どうなるか?


……毎年恒例、貴族パーティー、の時期である。




この時期には、毎年、貴族の殆どが集まってパーティーをする。


年末のこのパーティーは、どんな木端や田舎貴族でも出席が許されるし、招待状も届く、唯一のイベントだ。


……まあ、うちの父親は行かなかったらしいが。


あいつマジで、兵隊から貴族に成り上がったばかりの奴だったから、俺の育て方も「貴族の嫡子の教育」ではなく、「兵隊長の教育」だったっぽい。


まあ今になって考えれば、貴族の嫡子が放置されてて、ある程度育つまで教育も何もなしってのは、いかにも平民臭い教育方針だなと分かるもんだ。


ある程度育つまで放置して、死なない程度の年頃に育ってから剣の訓練の開始!とか、いかにも底辺だわなあ……。


普通の貴族なら、まず、子供の頃から死なないように配慮され、目の届くところに置かれるはずだ。


何匹もガキを作って、生き残ったやつだけ育てる!みたいなのは、野生動物のそれであり、即ち、貧民のそれである。


だがまあ、そのお陰で、親の目がないところで好き勝手できたのはアドだろう。


その時に手にした力は、今でも俺を支えてくれている。


で……、パーティー。


このパーティーは、忘年会というか何と言うか、付き合いの悪い奴でも必ず来るような感じのパーティーだ。


さっきも言ったが、このパーティーに出てこないのは、うちの父親みたいなマジな底辺かキチガイしかいない。


「ね、ねぇ、エグザス?今年のパーティーなんだけどぉ……?」


任意参加という名の、基本全員参加……。


貴族になる前の、学園生のような子供達も。


つまり、俺も、フランちゃん達も、だ。


そんな訳で早速、フランちゃんが俺のご機嫌を伺うかのように、揉み手でやって来た。


「あーーー、どーーーすっかなーーー!!!」


なので俺は、ノリノリで答える。


「ねえ、本当に、ねっ!お願いだから、今年もね?!ほら、来てくれるだけで良いから!ねっ?!!!」


するとフランちゃんは、必死に俺の機嫌を取りに来た。


一部の隙もない媚っぷり……、流石だな。


グレイスとユキではこうは行かない。


グレイスは覚悟ガンギマリ過ぎて、俺が嫌だと言ったら普通に従ってしまう。役に立つが面白くはない。


ユキは……、貴族の癖に、そういう外聞とか全く気にしない。人としては、行動で何かを示す奴なんだろうが、貴族としては普通に不適格だな。


そんな訳で、社会や貴族の柵と、俺からのパワハラで板挟みになって、面白い悲鳴を上げてくれるのはやはりフランシス。フランちゃんだ。


フランちゃんが苦しむと、俺は楽しい。


物理的に痛めつけるのではなく、精神的に嬲るのが良いな。


もちろん、虐めてばかりでは忠誠心が失われる一方。故に、利益を渡して、褒めるときは誉めて、床では優しく扱ってやっている。


フランちゃん自身も、割とマゾなのか、俺に振り回されることを楽しんでいる節もあるんだよなあ。


「ねっ、エグザス!パーティーに出席してくれるんなら、私なんでも……」


「何でもしてくれるって?」


「……いえ、アンタに何でもするとか気安く言ったら、本当に『何でも』されそうだからちょっと無理だわ」


それはそう。


正しい判断力だ、偉い。


「お願い〜!ちゅー!ちゅーしてあげるからぁ!」


「してもらわなくても、お前は全身が俺の所有物なんだよなあ」


フランちゃんは俺のおもちゃであり、夜は、大人のおもちゃとなる。そういう契約だ。


「えっと……、それじゃあ、実家でとれたデータを……」


「それを貰うのは、お前の実家にロボット兵器を流す条件であって、対価にはならないはずだが」


おやおや、舐めてるのか?


組織の幹部であったとしても、身内同士のなあなあで利益を融通し合うようなことはしないぞ?


そういう組織はすぐ腐るからな。


俺達は、一般なろう主人公さんのような、身内に駄々甘の小規模仲良し山賊団ではない。


大々的な……、それこそ、世界を裏から支配するような大組織を作っているんだ。


信賞必罰、風紀の引き締め、規定の遵守。これができなきゃ、大きな組織は維持できない。


そして、「組織」だからな。


チート能力がある主人公が一人で何でも解決して、周りのヒロインという名のオナホから褒められるだけでは、単なるワンマン山賊団。


組織をやるには、相互に助け合わなきゃならない。


こいつらにも、俺が知らないことを独自に研究させたり、俺ができないことやめんどくさいことを代行できるように勉強させたり、色々やらせている。


今はこんなもんだが、将来的には、俺がいなくても組織が回るくらいには周りを育てるつもりだ。


なので、身内の縁だからとか、愛人だからとか、そういう理由で何でもかんでも融通し合うのは禁じている。


「そうじゃなくって、家電の稼働データよ!……前に実家に帰ったら、臭くて汚くて耐えきれなくて、私の自費でショッピングモールから買った家電を実家に送ったの!それのレポートを書いてもらっているから、私がそれを添削した後に提出するわ!……こ、これでどう?」


……しかし、そこは優秀なフランちゃん。


ちゃんと、自分で考える頭を持っている。自主性に欠けると謗られている日本の若者達とは違うな。いや、まあ、日本の若者達は自主的に行動すると怒られるのが分かっているから、責任を負わないように何もしないだけなんだろうが……。


とにかくフランちゃんは、自分なりに考えて、自分の研究をして、俺と組織に貢献しようとしている。素晴らしいことだ。


「まあ、冗談だ。パーティーには出る。……しかし、俺との交渉材料をちゃんと用意しているのは良いことだな。それでこそ、結社の幹部だ」


俺は、フランちゃんをぐりぐりと撫でてやる。


「あっ……、えへへ……。ちゃんと、私のことを見てくれてるんだ?」


「当たり前だろう?フランちゃんはおもちゃなので負荷をかけて遊ぶが、それとは別に、幹部としては信用しているし、期待もしている。そこに偽りもおふざけもない」


「ああ、そういうタイプね。家庭と仕事は完全に別、みたいな……」


フランちゃんがなんか呟いたが、そりゃそうだろ?


仕事に私情を挟んではいけません、だなんて、当たり前過ぎないか?

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