第108話 古代人愚かなり
泣き叫ぶドラゴンを拘束して、鱗を剥いで爪や歯を砕き、瞳を抉り、心臓を切り出し、魔石を引き抜く。
そんなことを一ヶ月くらい続けていたら、ドラゴンが何も言わない肉の塊になってしまった。
苦痛と絶望で脳が萎縮してしまったようだ。
なので、再生の魔法をかけて正気に戻そうとしたが、ツルツルになったノーミソはやはり、もう戻らんらしい。
精神は脳を再生しても戻らないんだよな。
まあ確かに、脳の組織的機能を戻しても、そこに記録されたシナプスの繋がりは戻ってこないか。
ハードディスクを割ってから、何らかの方法で繋ぎ直しても、その時にハードディスクに入っていた情報は失われたまま。そう考えるとまあ、妥当ではある。
古代人のことも知れたし、作成中の不老不死の術式にも新たなアプデを入れられた。
本格導入も近いな。
で、壊したドラゴンは、複製したりして各所に配置。
「道具人間」と同じ扱いとする。
いや、複製とはちょっと違うか?ドラゴンのホムンクルスだな。
にしても、古代人……いや、エルフか?なんでも良いが、そいつらはアホだな。
作ったは良いが放置するなんて。
自分の制御下にない大きな力を放置するのは、上位者の度量や余裕ではなく、油断だろう。
俺の『世界法則』への不正アクセスを放置している辺りで、実力というかセキュリティ意識が欠けていることが分かるが……、それにしたってこれはない。
このドラゴン君も、目の前にいれば秒殺できたとしても、人を殺すのは容易い訳で。
通商破壊と言うんだったか?そういう、小細工に全力を出されたら、俺だって普通に迷惑していたぞ?
ちょっぴりでも自分のリソースを奪える存在なら、警戒するのが当たり前では?
況してやそれが、自分が作って捨てた、自分に恨みがある存在なら、もっと制御するか……、或いは処分しておくべきだった。
なんて言うかね、こう、あんまりソースのない精神論みたいな話したくないんだけど、この程度の意識で仕事してるような奴らがまともな結果を出せると思わないんだよね。
コンプラ意識とか、最近のポリコレへの意識とか、環境保護への意識とかSDGsとかさ、そういうのちゃんとやってない企業だって思われると、普通に取引で損でしょ?
そういう殿様商売みたいな態度でやっているから、俺みたいな個人のクラッキングに気付かずに基幹システムを弄られちゃってる訳じゃん。
本当に良くないと思うよ、そういうの。
まあそのエルフも馬鹿じゃないし、表社会には出てないっぽい?
そもそも今、どれだけの力があって、何をやっているのかも分からんしな。
いや、というより、まだ居るのか?ワンチャン絶滅してたりしないか、これ?
ドラゴン君の口振りでは、相当な悪党らしいが……、それなら、表社会を支配してなきゃおかしくない?
エルフだの古代人だのって話は、数千年前とかそういうレベルの話らしいし、それだけの時間的猶予があって星の支配すらできてないの謎でしょ。
かと言って、こっちで探すのもなあ……。
アドミン権限があるし、『世界法則』と繋がっているユーザの検索ができるソフトはインストールしてあるが……、検索ワードが分からん。システムを通してのエルフの特定は不可能だ。
大体にしてこのシステムめちゃくちゃ使いづらいんだよな。そりゃあ、俺も弄りたくもなるというもの。
なんて言うかね、想定ができてないよ。
生命という名のユーザ達が、このサーバーに溢れるという想定が。
数千数万単位を管理運営するシステムならこれでいいのかもしれないが、今の地上の生命とか微生物レベルまで含めると兆を超えてるよもう。
タグの管理とかひでぇもんだ……ああいや、最初の設計者は多少は遊びを持たせておいたみたいだが、ログを見ると、世界法則ができてから千年後ぐらいに追加されたアップデートファイルがあまりにもクソで、バグがエグいほど発生している。
その本質的なバグを無理矢理塞いで、出力されるデータのみを取り繕う「とりあえず動くからヨシ!」とか言っているような三流プログラマみたいなコード。この世の終わりだよもう。
あとコードが汚ねえ!自分達しか書かねえからって、意味分からん長文コメントをソースコードにぶち込むな!
デバックコードを本番環境に流用すんな!ここでハードコーディングやめろ!エラーを握りつぶしてとりあえず出力すんじゃねえ!分からんからってデフォルト値を返すな!
……古代人だかエルフだかは知らんが、完全に私恨で殺したくなってきたわ。
まあなんだ、とにかく、この世界の構造はクソである。
で、えーと……、そんなクソシステムなので、エルフは見つからない。
居るかどうかも分からない。
居たとしても、この星程度を支配できてないのなら、警戒するに値しない……、とまでは言えないな。
さっきも言ったが、そのエルフとやらは、俺のリソースを奪える可能性がある訳だから。
だが、優先度は残念ながら下がる。
さっきから言っているが、『世界法則』は事実上、俺の手の内にある為、「世界法則を操る権限を持つ疑惑があるエルフ」程度にいつまでも構っていられないのだ。
仕事がね、多くてね……。
もし、エルフが俺でも予想ができない隠し玉があった場合?
それももちろん考えてはいるが、見えない脅威に怯えるよりも、目の前の問題から着実に片付けていくべきだろう。
隠し玉が〜!と心配しようにも、この世界、いつ崩壊するか分からないクソコードで動いてるし……。
俺だって、その世界法則のエラーが関わってる訳だし……。
「さあ、とりあえず仕事だ仕事!楽しいバカンスは終わりだ!」
俺は考え事を終えて、手を叩き、元スラムのオフィスで周りの社員に指示を出した……。
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