第106話 インタビュー・タイム

『何故だ……?今更、何故……!』


手足を失って転がるドラゴン君に、俺は訊ねた。


「知っていることを全部吐いてもらおうか」


『我は、我は何も知らん……!』


「知っているんだろ、エルフについてとか、モンスターの起源とか」


『何……?貴様……、ヒト種、か?まさか!何故だ?!』


んー?人だと何か不都合が?


自分一人で納得して驚かれてもな。


「人だと問題が?」


『はぁ……、はぁ……、有り得ぬ、のだ。ヒト、に、そんな力は……』


うむ……。


「すまん、質問の仕方が悪かったな。知識は体系付けて基本、根幹から知らなければ、実用化できないものだ。なので、一から聞こう。まず、恐らくは話の中心になっているであろう、エルフの話だ」


俺は一息でそう言って、もう一言。


「エルフとは、何だ?何者なんだ?」


『ふぅ、う……。エルフとは……、《古代人》の生き残りの、成れの果て、よ』


ふむ……、また新しい単語が。


「古代人とは?」


『古き民……、我も詳しくは知らんが、星の海から、天翔ける船に乗って現れたという……。凄まじい力で、何もないこの世界に、海を創り、空を描き、陸を浮かばせ……、そして命を芽吹かせた……。貴様ら、ヒトの言う……、ククク、《神》だな、まるで……』


んーーー?


んんんんんーーー?


えっ……、そんな、話なの?


今はもう滅んだ古代人が、SF的な未来文明の存在でした!みたいな。


一昔前のRPGみたいな展開だなオイ。


世界樹の底に新宿があるタイプの世界か?


それとも、花売りのヒロインがホーリーを使う感じのアレ?


仙人バトルものかと思っていたらいきなり「最初の人」とか言ってグレイみたいな宇宙人が出てきた漫画の話?


……いや、確かに、魔法の仕組みがイヤにプログラム風なのも、プログラマに相当する未来人というか、高度な文明を持つ人々が作ったからです!と言われれば、まあなんとなく納得はできる。


この世界の人間が作ったとするならば、もっと魔法にはファジーな処理が入るし、信仰の要素も割り込んでくるはずだ。それはきっと、プログラムと認識できるほど、理論整然としていないはず。或いは、量産型粗雑ファンタジー世界のように、「イメージをすると魔法が発動します!」みたいな、学問ではなく職人芸みたいなことになるだろうよ。


ははぁ……、面白くなってきたな、これは。


「なるほど。エルフは、その古代人とどんな関係がある?」


『古代人は……、滅ぶ運命にあった。船に乗っていたのは、数名のみ。繁殖ができない事情が色々と、あった、らしい。聞いた話だがな……』


「で?」


『古代人は……、繁殖の為に、絶対的な……、《力》を、切り捨てた……。お前達が、《魔力》と呼ぶ力だ……、それを、捨てた。捨てたものを、《ヒト》と呼ぶ。ヒトに、なったのだ……』


ほーん?


じゃあこの世界の人類って、猿から進化した訳じゃなく、寧ろ古代人から「退化」した存在な訳ね。


ん?待てよ?


「獣人とかは?」


『獣人……?ふぅ、はぁ……、ああ、そうか。同じだ……、古代人は、生存の為に、別の形質を持った種にもなった』


あー、そう言うことね。


生き残る為に、人間に成り下がった。


でも更に確実に生き残る為に、亜人を色んな種類作ってみて、別の道も模索した、と。


「何故、繁殖の為に、魔法の力を捨てる必要が?」


『古代人、とは……、《レイス(幽霊)》か、《エレメンタル(精霊)》のようなもの、よ。この地で生きるには、肉の器を持ち、《魔》を、《霊気》を、捨てる必要があった……』


「そうなのか?俺達は魔力もあるし、繁殖もできるが」


『ククク……、不完全、だろうに……。ヒトの《魔力》は、《魔法》を介さずには、巧みに操れ、ぬ……。我々、モンスターと、違って、な』


気になる話があるが、質問が優先か。


「んー、じゃあ、エルフは魔力を捨てなかったのか?……じゃあ、どうやって生きていたんだ?魔力を捨てて肉の器に宿らなきゃ、繁殖できないんだろ?」


ドラゴンは、不機嫌そうな声になる。


表情など分からんが、イラついているのは確かだな。


『ぅ、う……、悍ましい……!奴らは、《箱》で増えるのだ!《箱》に、血を、植えつけ!《箱》の中で子が育つ!生き物の所業では、ない!』


ほーん?


生殖はできないから、機械装置かなんかでクローンを作ってんのかな?


確かに、一般的な倫理観からすると気持ち悪いかもな。


では、もう一つ……。


「エルフについては、分かった。退化に納得できず、力を持ったまま次の時代に生きたがった、強欲な存在だな。では、お前らは?お前らモンスターの起源は?」


それは……、と。


ドラゴンが再び、口を開く……。


『モンスターは……、エルフの、古代人の、《実験体》よ……!』


あ、ふーん。


「実験体?……ああ、膨大な魔力を持ったまま、この星に適応した生物として転生する為の、実験体か」


『ほう……?賢しいな、ヒトよ……。その通り、我々は、エルフ共の肉の器を造る際の、命を使った冒涜の儀式の……、成れの果てよ!』


なるほどね。


だから、そんな恨み節な訳ね。


ミュウツーみたいな存在ってことでしょ?だいたいわかった(雑)。


『モンスターとは、全て、エルフ共の実験体……、それが放棄されたもの。皆、生殖の能力がある故、野生に還り、増えたのだ』


ほーん。


まあ確かに、ゴブリンとかオークとか、繁殖力旺盛だもんな。


その古代人とやらは、半霊体というか、実体を持たないタイプの存在だったんだろ?


であれば、外見の美醜や、そもそも人型であることに拘らなかったのかもな。


だからこそ、色々な実験体……モンスターが造られた、と。


これが、世界の事実か……。




「じゃあ、エルフって単なるアホなんだな」


『………………は?』

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