第105話 ドラゴンとの邂逅
ドラゴン。
この世界におけるそれは、半ば伝説の存在だった。
ワイバーンの十倍、つまりは全長にして百メートル近い巨体を持ち……。
魔法を自在に操り、見た目よりもずっと素早く。
その爪牙は山を削り。
吐く息は、人間の使う魔法で言う、「禁術」と同等の破壊を齎す……。
調べられる限りでは、そんな話だった。
実際はどうだ?
緑の鱗、翼膜のある大蜥蜴。
うむ、まさにドラゴンだ。
「おい、話しかけてきたぞ……?」
「案外、話が通じるのかもな」
「そうは思えないけどね僕は。いつでも殺せると思われてるんでしょ」
三人の手下共は、流石にビビっているか。
動こうとせず、防御魔法の構築をしている……。
なので。
「何だ、お前話せるのか?モンスターなのに頭が回るんだな」
俺が訊ねてみる。
『……ヒト風情が。我を侮るか』
お。
『死ぬがよい』
いきなりブレスかよ?
高慢ちきなドラゴン野郎らしいな。
吐かれた息は、火焔放射というよりかはレーザー。
光子、いや、光の波長?指向性エネルギー兵器?
何メガワットだ?いや、もっとあるな、テラか?
ミサイルの撃墜どころではなく、照射された部分が一瞬で蒸発するレベルの光量だ。
それだけではない。
いや、本質的には、そうでない。
光ではなく、これは、圧縮された魔力か。加圧され、熱を発している……。熱は副産物だな。
「ほー、やるもんだ。予想通り、魔法を『使える』んだな?」
『何……?貴様、それは!カウンターマジックか?!』
んー?
何で知っているんだ、対抗呪文のことを?開発したのは俺だぞ?
なんで、この、山暮らしの田舎ドラゴンが知っている?
『……もしや、エルフか?!』
エルフ?
何でエルフ?
ああ、いや、根拠がない故の妄想レベルの予想をするならば、エルフは対抗呪文が使えるんだ!となる訳だな。うん、物語的にはそうなんじゃない?
けど俺は、物語の中ではなく、現実の世界を生きている訳で。
根拠がないのに、断定はできないんだよ。
例え、納得できるような「それっぽい」情報を手に入れたとしても、な。
『また、貴様らか!エルフめ!古代人の生き残りめ!そうまでして生きたいか、化け物があっ!!!』
「興味深い話だな、もっと聞かせてくれ」
『はああっ!喰らえっ!』
おお、爪……。
ん?
この、爪から放たれた飛ぶ斬撃、ちゃんと術式が編まれてるな。
モンスターの使うのは術式というか、魔力を使って肉体を強化したり、物質を創造したりするものの延長線にしかない。
筋力や頑強さの強化は、単に魔力を纏って、魔力の量……要するにデータ量を増やして、他のデータによって吹き飛ばさないように鎧を纏うようなもの。アレだ……、大きいデータは、削除するにもコピーするにも時間がかかるだろう?それと同じだ。
火を吹いたりするのも、可燃性のガスを生み出す魔法的な器官を体内に持ち、そこに魔力を注ぎ込みガスを発生させ、口から吹き出し……、例えば前歯を噛み締めて火花を発して着火する!とか、そんなもん。
対してこのドラゴンの攻撃は、魔法としてしっかり術式を編まれている。
薄い刃状の力場を、腕を振ると射出される。力場は、射出された段階で制御を離れ、百メートル程度で消失する。使いやすい術式だ。
「驚いたな、畜生の分際で術式も自作できるのか」
『貴様ーーーッ!我を畜生と呼ぶか?!勝手に我々を造ったエルフが、畜生とーーーッ!!!』
造った?
ドラゴンを?
いや、モンスターをか?
詳しい話が聞きたいな。
「っはあ……!危なかった!」
お?
手下共が地面から出てきたぞ。
ああ、防御魔法をちゃんと使えたのか。
「何て出力だ……!とっさに地面の中に隠れなければ、蒸発していたぞ!」
あー、まあ、凡人の魔力量ならそうね。
さっきのドラゴンブレス?レーザー?は、とにかく出力が大きかった。
この前に、魔法はインターネットの通信に似ていると表現したが……、このレーザーブレスは、全ポートから無茶苦茶なデータ量を無理やり流し込んできてこちらをパンクさせようとする、みたいな攻撃だった。F5アタック、田代砲……いや、今の子は分からんか。
であるからして、このデータ量に対応できないのであれば、直接射程範囲外に隠れて、通信ポートを物理的に切断するしかない。
こいつら、手下共は、魔法で地面を掘ってそこに隠れることで、通信拒否してサーバたる肉体の破壊を防いだ訳だな。
無論、このドラゴンのF5アタック砲も、人外のデータ量……魔力がある存在からすると、その魔力で直接ぶん殴るだけのお手軽攻撃で、シンプルで使いやすい攻撃だろう。少なくとも、全くの的外れなことをやっているような馬鹿ではないな。
「とりあえず、援護をするぞ!『ヒートハウザー』!!!」
「『オブシディアンスライサー』!」
「『ライトニングボルト』!」
手下共が魔法を放つ。
が、しかし……。
『効かんぞ!バカめ!』
純粋な魔力量の差で弾く。
それだけじゃなく、体表面に対魔法のバリアを張っているな。
俺が常に張っているタイプのバリアのうち、一つに近いかもしれない。
具体的には、原始的なパケットフィルタリング式ファイアウォールだ。
特定の魔力波長……要するに、「熱」や「光」などの、物理的に危険な魔力現象が体表に触れた瞬間、その部分の魔力を強い魔力で遮断する……、軍事的にはリアクティブアーマーと呼べるようなものだな。
やるもんだ。
そもそもの基礎スペックからして、手下共じゃ素の状態のドラゴンに傷をつけられないのだが、このファイアウォールがあれば、全く攻撃は通用しないだろう。
まあ、俺の方が強いから全部無意味なんだけど。
とりあえず、両手足と羽と尻尾を落として、話を聞くか……。
「『マジックミサイル』」
『グオオオオオーーー?!!!!』
腕が飛んだ。
「『マジックミサイル』」
『ギャオオオオオ!!!!』
足が飛んだ。
そして……。
『や、やめろ、やめてくれ……!』
おお、もう泣きが入ったぞ。早いなあ。
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