第103話 強いモンスターとは?
ドラゴンを見てみたい。
これは、好奇心……だけではない。
純粋に、そのドラゴンってのがどんな存在なのか、疑問に思うから、だ。
ほら……、今、ゼスの……って言うより、魔導師の強さが異常だね?って話をしている訳だろ?
この国の騎士様は、ビンビンに鍛えたベテランでも、相手にできるのは精々オーク一体だ!って。
まあそのオーク一体ってどれくらい?とか、じゃあゴブリンでは?とか、そういう疑問を持つ人も多いだろうが、その辺は俺の体感というか、結構ファジーな判断をさせてもらっている。
だってほら、強さって明確に数値化できないからね。
マイク・タイソンと千代の富士とアントニオ猪木と……、どれが一番強い?!!?!?!……とか言われて、これだ!って選べるか?
選べる奴は推しの選手を選んでいるだけで、まともな人は「ルールによるんじゃないですか?」とか「階級差が……」とか言うだろ。普通に考えてそうだ。
つまり、「強い」ってのは、条件によって色々変わる訳で、明確にどれくらい?とは言えないんだよ。
その上で、俺の体感含む雑なデータで言うと……、オークはまあ、頭の回るグリズリーみたいなもん。
一般市民からすると、逆立ちしても勝てない化け物だ。
骨格的に、熊のような四足歩行はできないから機動性の面で大きく劣るが……、矢弾を弾く強靭な骨格と分厚い皮膚。人の手足を引きちぎる膂力。その上で、猿程度の知恵がある……。
まあ普通に怖過ぎる存在である。
そんなのと、鍛えた騎士は同じくらいの強さ。
この世界では魔力があるからな。鍛えている人間は無意識下に魔力を操作して身に纏い、身体能力を強化できるのだ。
そんなオークを片手間にボコれるのが、オーガ。
で、更に、そんなオーガを一発で爆殺できるのが魔導師。
バランスおかしいだろこれ。
いや、もちろん、魔導師も懐に入られれば普通にオーガに負けるよ。
騎士にも、下手すりゃ負けるんじゃない?
あーでも最近は身体強化とか肉体保護とかの魔法を作っている奴が多いから分からんが。
「……で、そんな魔導師が複数、下手すりゃ何十人って在籍しているカーレンハイト辺境伯家が、手を出せていないダンジョン?どういうこと?って話をしている訳だ」
と、俺は、焚き火の前で円になって座る班員達にスープを渡しつつ、言った。
スープに浮かぶ水餃子をスプーンで掬いつつ、ゼスが言う。
「……ドラゴンはな、魔法を使うんだ」
へー!
「そうなのか?」
「ああ。単なる、暴れ回るだけのモンスターであれば、お前の言う通りにカーレンハイト辺境伯家が始末している。そうなっていないと言うことは、一筋縄ではいかない相手だからだ」
ふーん?
「モンスターって魔法を使えるのか?」
「いや……、寧ろ、モンスター……魔物ってのは、魔法を使う動物だから魔物って言うんだぜ?」
「て言うか、使ってるじゃん。オークとかオーガとか、あの剛力ってどう考えても魔法の力だよね?後は、ファイアハウンドの火吹きとか、シーサーペントの水吐きとかも魔法らしいよ」
ホルマンとヘクターも、スープを飲みながらそう言ってきた。
ああ……、確か昔、ワイバーンを仕留めた時も、あんな形状の身体で自由に空を飛べるのは航空力学的におかしい!魔法使ってんだろ?!みたいな話をしたような気がするな。
「だが、魔法が使えるんなら、何で対抗呪文でこちらの魔法を防がないんだ?」
「「「……確かに?」」」
んん?
「仮に、魔法に対する知識がまるでなくとも、魔法攻撃が当たる瞬間に身体から魔力を放てば、威力を軽減できるのではないか?」
「あー……、モンスターは魔法が使えるが、意識して使うことはできないってことなんじゃねえか?ユルいな、おい……」
「肉体を強化するだけのモンスターはそうかもしれないけどさ、火を吹いたり雷を纏ったりするようなやつなら、放出の感覚があるんじゃないの?できないのはおかしくない?」
おや、活発な議論。
若者達の好奇心を刺激してしまったかな?
考えることは良いことだ、やらせておこう……。
「エグザス、お前はどう思う?」
んー?
ゼスが聞いてくる。
「さあな。今は仕事が忙し過ぎて、モンスターの生態調査なんてやってられんよ。まあ、その辺りは、うちの幹部の一人が色々とやっているらしいから、いつか研究結果を聞こうと思うが……」
「そうか……。それで、やはり……、ドラゴンとは、魔法を『意識して』使えるモンスターなのだと俺は思うのだが、どうだ?」
「どうなんだろうな?ただ……、そうだとしたらそんな種族は、もう少し世の中で知られていないとおかしいとは思うが」
「確かに、それもあるか。魔法で一年で街を作ったお前が言うと、説得力がある……。では、ドラゴンが温厚な性格だとすると?」
「それは無いんじゃないのか?だって、この山の奥まで来た奴は帰って来れないんだろ?それって、殺してるってことだろうに」
「ふむ……、そうだな。では、ドラゴンはどれほどの使い手だと思う?」
「さあな。だが一つ言えるとすると、世界の全てを感知していたり、未来を見たりはできないだろうな」
「何故だ?」
「俺がそのドラゴンだったとして、そんな能力があるんなら……、確実にエグザスという危険な存在を、生まれる前に殺すからだな」
「……なるほど」
「そもそも、本当にドラゴンなのか?」
と、ホルマン。
「じゃあ、他に何があるんだ?」
「他の強力なモンスターとか……、或いは、エルフの隠れ里なんてのもあるんじゃないかね?」
「エルフか……。確か、魔法の扱いが人間より上手いんだとか?」
「ああ。魔法を人間に教えたのもエルフだという説があるらしいぜ?おまけに、女はどうでも良いとして、男は美男子揃いだとか!エルフの隠れ里だったら、一人くらい抱けないか交渉を手伝ってくれよ!」
「良いけど、病気とか持ってたら面倒だしなあ……。ああ、そうだ。ヘクター!お前の家は密偵なんだろ?エルフの情報とかないのか?」
「いや、そうだけどさ、そんな大声で言わないでよ?……エルフの情報ね、ないよ」
ヘクターは、食後のココアを飲みながら答える。
「無いのか?全く?」
「うーん、まあエルフのものだとされている古代遺跡とか、ほんのちょっとの噂くらいはあるし、記録も少ないけど残ってはいるよ。けど、ここ百年くらいに『エルフに会った』って人はいないね」
「ふーん」
「ああ、でも。学園長は、戦場でエルフと戦ったことがあるらしいよ?すっごい昔の話だけど……」
ほー。
「帰ったら、話を聞いてみるか」
「そうだねぇ、エルフとか今見つけたら、結構な騒ぎになりそう……」
「しかし、エルフはあの学園長と戦えるほどに強いのであれば……」
「また戦いの話か?もう少し、面白い話をしようぜ?例えば……」
こうして、夜も更けていく。
修学旅行的な楽しさだな!
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