第100話 森に潜む精鋭兵

「そんな訳で、モンスターの正体は、全身魔導具で武装したアドン魔導国のプロ兵士達だ。殺すのはかわいそうだから、説得して帰ってもらおう!」


「「「……??!?!?!!?」」」


オトモに連れてきた男達三人が、目を白黒とさせる。


「……殺さないのか?」


三人のうち一人、ゼスが、俺の顔色を窺うようにして訊ねてくるので……。


「俺はやさしいので、無益な殺生はしないんだよね」


……俺はアルカイックな微笑みと共に善なる言葉を返してやった。


「そういうのいいから……」「逆にめちゃくちゃ怖いからやめてよね」


ホルマンとヘクターもまた、無礼な態度。


まあ……、うん。


「だってこれ、俺じゃなくてカーレンハイトのジジイが喧嘩売られてる訳でしょ?そこに、俺がしゃしゃり出てきて殺すのもなあ」


これで俺がアドン魔導国を滅ぼしました!なーんてなったら、カーレンハイト辺境伯から「扱いやすくて結構じゃのー」とか煽られるって、絶対。


それは相当ムカつくし、なんか負けた気がするので、やらない。


「負けた気がする」というのは、大事だ。


ガキの喧嘩のように思えるそれは、大人の、特に貴族の世界では「矜持」と呼ばれるもの。


こんなに大暴れしている俺だが、世界の全てが敵にならず、それどころか社会の一員でいられるのは……、馬鹿みたいに最強の力があるからではなく。


この「矜持」を持つ貴種であるという認識をされているからでもあるのだ。


平民、ガキ、愚か者、理性のない獣が大きな力を持つともなれば、それは単なる魔王。パブリックエネミーである。


だが俺は、貴族としての実際の立場はどうでもいいとして、貴族らしい立ち振る舞いや教養、成熟した精神性を持つと、多少なりとも認識をされているから……、ビジネスができている訳だ。


仮に、意味不明な自分ルールでも、本能以外に自己の行動を規制しうる規定があるのであれば、それは、交渉可能な存在だろう。


例えば……、この世界。


俺はあっさり殺しまくっているが、その中に実は、知性のあるモンスターもいる。


まあほら……、ドラゴンとか、吸血鬼とか、そういうやつだな。テンプレ的で悪いが。


そういう奴らは、「毎年生贄を捧げるので、襲わないでください!」と言えば、助かる場合があるらしい。


あっち側としても、抵抗したり逃げたりする人間が、暴れないと約束すれば、大人しく食われに来てくれる訳だからな。理論的に考えると、利がある取引である。


人間の権力者側も、定期的に下の人間を生贄にすれば自分は安泰。それどころか、ドラゴンやら吸血鬼やらがいると、他のモンスターがビビって近寄らなくなるから、万万歳だ。


みんなが損をしない素晴らしい取引だろう(下層市民は人権がないので「みんな」のうちに入らない)。


ところが、ゴブリンは?オークは?


奴らは違う。


そもそも言葉が通じないが、仮に通じたとしても、「取引」とかそういうことは口に出さないだろう。奴らにはそれが理解できないからな。


ルールに縛られないということはなんとなくカッコよく聞こえるかもしれないが、実際それは、行動が完全に読めないということ。いいや、「操れない」と言うべきか?


つまるところ、「そこ」なんだよ。


話が通じる奴かどうか?の、判断基準は。


ルールがある奴なら、それを理解してやれば、取引ができる。操ると言えば聞こえが悪いが、行動を誘導できるのだ。


誘導ができるなら、未開の民族、亜人が相手でも、モンスターでも関係なしに、仲良くとは言わずともなんとか同じ世界を生きられる。


だが、ルールがない相手とは、殺し合うことしかできない。


いざという時に命乞いもできない相手とは、互いを滅ぼし合う絶滅戦争しかない……。


俺はもちろん、この国の人間なんてどうでもいいが、皆殺しにしてしまっては色々と問題があることは確か。少ないとは言え、人間共に求めるものもある。


だから、周りの人間と取引をするし、できる訳だな。


そんな訳で、自分ルール的に、こちらからいきなり殺す訳にはいかないのだった。


なので、説得。


説得をしようじゃないか。




とりあえず俺は、アドン魔導国特殊部隊の駐屯地を襲撃して更地にした。


「あの……、説得は……?」


ヘクターが何か言っている。


「まず、話を聞く体勢になってもらうだけだが」


隠れて奇襲できると思われては面倒だからな。


隠れられる場所を消し飛ばして、会話できるようにしてやったところだ。


対象の指定も慣れたもの、木々だけを消すのなど、容易い。


そして、キネティックマジック……所謂サイコキネシス的術式で、捕らえたアドン魔導国兵を引き寄せる。


「なっ、なんだ貴様?!!」


捕まったアドン魔導国兵が悲鳴を上げるが、とりあえず無視。


そして、捕らえたついでに、装備を解析する。


ふむふむ……、魔石を消費して炎の槍を放つライフルか。


ビルトリアの正規の魔導師が使う標準的な攻撃火属性の魔法、『ファイアランス』に酷似している術式が刻まれているようだ。


トリガーを引くことで魔石が撃鉄に砕かれ、その時の放射魔力が銃身の魔法陣が刻まれた部分に吸われて、術が放たれる仕組みか。


服装はギリースーツ……要するに、草に偽装した迷彩服。


それに、魔石を消費して攻撃を防ぐ力場シールド的なもの。


人数は百人足らずか。


確かに、これだけ装備を整えれば、この程度の森は抜けられるな。ジェネリックとは言え魔導師約百人だろ?余裕だそりゃあ。


「失礼、秘密結社アウロラの者だ。この付近では、我が社の新人達が研修中なので、作戦行動を慎んでもらいたい」


だが、俺には敵わん。


力場シールドを叩き割って、ライフルを捻じ曲げる。


「こちらに『銃』を向けるな」


「何?!貴様、『これ』が何か知っているのか……?!」


あ、そうね。


この世界では、まだこの国にしかないのか?


他の大陸とかめんどくさいからほぼ観測してないけど、多分この周辺国だとアドンだけだろう。ライフル銃なんてものがあるのは……。


「クソッ!抜刀!抜刀ー!」


だから、俺が「知っている」と判断した、隊長らしき男は、焦って抜刀の指示を出し始めてしまった。


あー、めんどくさ。


話を聞けよ……。


とりあえず、力でねじ伏せるか……と、俺が思ったところで。


「その辺にしていただけますか?」


一人、白肌の男がやってきた……。

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