第99話 謎の人型モンスター?
山なう(死語)。
何だか知らんが、このヴェジェ山には最近、見慣れぬモンスターか何かがいるらしく、それに襲われることが稀によくあるらしい。
そのモンスターは火を吹く人型らしく、光る腕で触れてきて、人を焼き殺すとか……。
そんな奴らが森の奥で徘徊しているらしく、非常に危ないから、生徒の護衛をしろ……と。
そういう指示がきた。
もちろん、従う必要がないのは確かなのだが……、そうすると折角育成中の手下共が死ぬかもしれないぞ?と、クルジェスのジジイはそう言った。
ご尤もである。
クラスメイトの中にいる、俺のシンパというか手下共は、現在育成している真っ最中。
魔導師はいくらでも増やせるのだが、初等教育というかある程度の土台ができているのって、やっぱり貴族や豪商だからな……。
毎回言っているが、この世界の一般市民である木端ノーミン共は、一言で言い表すなら「言葉を喋る猿」って感じだ。
俺が死んだ当時流行っていた、日本のライトノベルやファンタジーもの?って言うのかアレ?あんまり詳しくないが……、ああいう創作物で語られる中世、正しくないからな。
現代日本人では、そもそも分からないんだろう。身近にいないからな、「全く教育を受けていない人間」なんて。モデルがないから、作者も書けないんだろうよ。
「教育を受けていない」、ってのは、「文字が読めない」とか、「敬語を使えない」とか、そんなようなレベルの話じゃない。
「日本人として認められる最低限の知識とマナーがない」ってことだ。大の大人が五歳児並みのマナーしかないんだぞ?怒る前に怖気が走るわ。気持ち悪い……。
実際は、五歳児並みと言っても、「ムラ社会」を維持するための最低限の知識マナーくらいはあるが……、それでも、平気で非道徳を成すカスばかりだぞ?そして卑しく汚らわしい。
こういうことを言うと「悪しき貴族ムーブかな?」と思われるかもしれないが、貴族と比べるとマジで比喩とかではなく本当に汚いんだよ、平民は。性根も見た目もな。
そういう時代なのここは。
なので、ノーミンの猿共は、まず「人間にする」段階から教育をしなきゃいけないから、例え魔導師にできてもしたくないんだよね。コスパ悪いんで。
そんな訳で結局俺が今できているのは、各地で「何も分からない孤児のガキ」を集めて、洗脳教育して、魔導師候補を育てるくらい。
遍く民に教育を!とかは、遠い未来の話じゃないか?
そんな訳で、手下がたくさん死ぬと困るんだよな。切り捨てても良いがタダで切り捨てるほどでもない。
かと言って、この演習を中止しろ!ってな訳にもいかない。
代案なしで反対なんてできんからな。
仮に代案があっても、持ち込んだら俺の責任でやらなきゃならないだろうし……。
力押しでどうにかなるのはもちろんそうなんだけど、こんな程度のことまで力押ししていたら埒が開かないというか……。
本当に、俺が出向いて、その人型の何かを調査した方が早いんだよな……。
興味も、あると言えばあるし。
ああ、もしかしたら「エルフ」か?
いるらしいんだが、まだ見つけてないんだよな、エルフ。
そう考えると、調べる価値はあるか。
クルジェスのジジイも流石に老獪だな?人を動かすのが上手い。肖りたいものだ。
で、そんな訳で山。
俺の班は、「特別遊撃班」などと言って、山林を回って件の人型実体を倒しに、或いは説得しに行く。
他の班は、ある程度固まって行動するそうだ。
一応、その人型実体は、山奥にしか出ないので、麓でモンスターの間引きをする分には安全だろう。
因みに、もう数ヶ月はずっと居るらしいので、演習の時期をずらす訳にもいかないそうだな。
「それで……、その人型の何か、とは?」
隣に立つ、同じ班員のゼスが聞いてくる。
「まあ待て、今ドローンを飛ばしている。あ、分かった。ギリースーツを着た人間だな」
ふむ?
人だなこれ。
多分、アドン魔導国の人。
肌が真っ白で金髪だからな。
で……。
「ほー?『ライフル』なんて持ってんのか。一丁前に?」
なんか……、ライフルを持っていた……。
遠隔で解析魔法……。
おや?
火薬っぽい反応はないな。
これは……、うん。
恐らく、弾倉に入れた魔石を燃料にして放つ、火炎放射器に近いかな?
魔石を燃料に、コア魔石でそれを制御して術式を通し、魔法を発動させる「魔導具」……。
マジックアイテムの、「兵器」だ。
いやあ……、凄いね、お隣さんは。
このレベルの魔導具が存在しているとは。
これがあれば、魔石さえ確保できるならば、魔導師なしでも魔法を使える。
俺が考えていた、下級構成員の作り方そのまんまだな!
こりゃ俺も、脳内を覗かれてパクられた!とキレ散らかして、アニメ会社に火でもつけた方がよろしいか?
いやあ……、こりゃキツいな。
つまり、山を超えてきたんでしょ、こいつら?
思いの外、強いんじゃないの?
昨日聞いたカーレンハイト辺境伯の話によると、アドン魔導国との戦力は拮抗していたと聞いているが……。
いや、アドン魔導国が出している魔導師は、外国人だとか?
何でも、「隷属の首輪」なる魔導具を使って、外国から攫ってきた魔導師を戦力化していると、カーレンハイト辺境伯は言っていた。
つまり、本国ではこんな風なプロが育っていた……、と。
山の迂回路での会戦は、あえて奴隷魔導師を並べて拮抗してみせて、本命はこうやって、プロフェッショナル達が潜入してきている、と……。
へえ、やるじゃない?
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