第96話 道中MTG
道中の描写?
もう良いだろ別に。
毎日、バーベキューしたり、飯盒で炊いたご飯でカレーライスを作ったりと、遊んでいただけだ。
特にこれと言ってイベントはなかった。
と言うか、それが正常な状態らしい。
そりゃそうだ。まだ、素人に毛が生えた程度の訓練生でしかない俺達生徒が、そんなガチバトルとかしない。
あくまでも、停戦されて長い元前線に赴き、前線で戦った歴戦の魔導師や兵士達から話を聞いて、ちょっぴりモンスターを間引くだけ……。
本当にマジで「修学」旅行って訳だ。
で……、まだ道中。
やはり、辺境伯領となると遠いな。
いやもちろん、車のアクセルを全開にしたら一日で着くだろうけど、それはNGらしいので……。
なので、俺は車内で、社内用SNSアプリを使って、幹部達とMTG(カードゲームではない)をしていた……。
『本日の議題ですが、新作ゲームのテスト業務が一件、コンビニとのコラボキャンペーンの商品案についてが一件……』
「あー、アラン。後アレだ、『テレビ計画』の方も、数年後を目処にやりたいから……」
『はい、そちらの件につきましては、このチームで……』
うーん……、異世界に転生したのに、地球とやっていることが同じだな。
でも仕方ない。
俺にできることは、転生しようが何しようが変わらないから。
むしろ、転生してからチートの補助やら新たな努力やらを急いで始めなきゃいけない方が異常だろ。
一般的な社会人ならば、異世界でもある程度通用するようなスキルをいくつか身につけていて当然だと思うが?
何歳で転生するのが普通なのかは知らないが、人間、三十そこらにもなれば、人として成熟し、一人で生きられるくらいの技能と生活力はあって然るべきだろ。
第二の人生では今度こそ!なんてフレーズを聞くが、第一の人生を真面目に生きられなかった奴は何回やっても駄目では?
二回目になってから慌てて努力を始めても、一回目からちゃんと頑張ってきた奴には負ける訳でしょそれは。
とにかく、何のスキルもない人間は、何度転生してやり直しても変わらない。
クズはクズのままってことだ。
そして俺は、実績も資格も、学問も何もかも、積み上げてきた。
積み重ねた知見と知識、多くの技能は、全く違うこの世界でもいくらかは役に立つし、何よりも、その経験を積み結果を出してきたという「事実」は、俺に大きな自信と肯定感を与えてくれる……。
『……これにて、定期MTGを終了します。続いて、各員の進捗報告の時間に移りたいと思います』
「ああ、頼む」
『僕は今、e-Learningは可能な限り終わらせてあります。なので、独自研究の最中です。それに並行して、「魔導師資格制度」の試験問題について、エグザス様のお手伝いの方を……』
「素晴らしい。偉いぞ、アラン。お前の努力は俺がよく知っている、実績もな。幹部としての能力は順調に育っていると評価できるぞ」
『あ……、ありがとうございます!!!』
そしてそれは、こいつらも同じ。
e-Learningだのなんだのと、マイルストーンを作ったのは、課題をこなした度に褒めてやるため。
積み上げた実績からくる自己肯定感は、実績そのものよりよほど大きな財産だ。本人にとってはな。
だから俺は、手下を褒める。
自信を持ってほしいのだ、誇りを持ってほしいのだ。
我が社の一員であるということに。
プライド、誇り、面子を舐めるな。
他のどの生き物も、生きるためならば簡単に捨てるそれだが、人間だけは違う。
人間は、誇りのために命を捨てる。
だからこそ、俺は手下に誇りを与える。持てるようにする。
そうして初めて、組織の……俺のために命をかけてくれる手下ができるのだ。
……なんか悪いことをやっているような雰囲気だったが、普通に善行だ。
言い方の問題じゃない?
俺からすると、碌に親から褒められたこともないようなガキ共に無理矢理愛社精神を叩き込み、鉄砲玉を作っている訳だが……。
実際は、孤児を集めて教育し、この世界のエリートである魔導師にしてやっているんだからさ。
その面を……と言うか、その面しかないんだが、とにかくそう言うところを見て、グレイスは俺のことを心から尊敬している。
逆にフランちゃんは、生まれついての上位者なので、下位者どころかアウターカーストの孤児なんてゴミとしか思っていないらしく、スルーの姿勢。
フランちゃんは被害担当者でいつも騒いでいるから可哀想な子に見えるが、その実、中身はゴリゴリの貴族女だぞ。
ユキは中立……というか、自分とその趣味以外のものにあまり興味を示さない。かなりドライだ。
問題のある組織に思えるが、この世界は実力さえあればゴリ押しできるので、結果的に問題ない。
「……はぁ、終わったわね」
「お疲れ様です!」
「お疲れでござる」
幹部達が、マギアパッド端末を閉じて、キャンピングカー内のベッドに倒れ込む。
「も"〜〜〜、秘密結社幹部、忙しいわ〜!」
愚痴るフランちゃん。
余暇は与えているはずなんだがな。
まあフランちゃんは、実家に流しているロボット兵器についての研究とか色々並行してやっているから、中々暇がないんだろうけども。
「フランちゃん、お疲れ。お前らも」
俺は、冷蔵庫から出したオレンジジュースを配る。
「ありがと」
フランちゃんは、詠唱無しで軽く指を弾き、魔法を発動。オレンジジュースの瓶の蓋を弾き飛ばす。
へえ、もうこのレベルで使いこなしているのか。
「無詠唱」は、この世界のどこかにいるらしい、エルフという伝説的魔法種族の特技らしいが……。
それももう、うちの幹部クラスでは標準装備だ。
……そうだ、エルフとやらを探してみるか?
見たことないんだよな、エルフ。
半獣はよく見るんだが……。
いや、手がかりもないし、今度の長期休暇の時とかで良いかな?
「あー美味しい……、ジュースが沁みるわ……」
「そんなに忙しいなら、ちょっと『休憩』するか?」
俺はそう言って、フランちゃんの肩を抱く。
「あんっ♡……うふふ、そうね?『休憩』しましょうか……♡」
フランちゃんはそのまま、俺にしなだれかかり……、上着を脱いだ……。
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